2015年に「JRC蘇生ガイドライン2015」が発表されました。この頃は「ガイドライン」という言葉を耳にすることも多かったのではないかと思います。このガイドラインとは一体何か、どのように作られるのかご存知ですか?
分からないという方のために、当記事ではガイドラインについての解説や、世界のガイドライン関連組織とその関係等についてまとめました。
ガイドラインの基礎知識、予備知識を押さえておきましょう。
ガイドラインについて調べると、「ILCOR」や「CoSTR」、「AHA」や「ERC」など、聞きなれない横文字が多くでてきます。現状ピンと来ない方が多いと思いますが、これらの団体について分かるとJRCガイドラインについてよく分かってきます。記事中では図も用いながら解説していますので、ガイドラインの基礎知識・予備知識にご一読いただけたらと思います。
1. JRC蘇生ガイドラインとは
JRC蘇生ガイドラインは「日本の救急、蘇生に関するガイドライン」です。JRCとは、「日本蘇生協議会」のことで、英訳のJapan Resuscitation Councilの頭文字をとってJRC(ジェーアールシー)と呼ばれています。
JRCガイドラインはどうやって作られるのか?
JRCガイドラインは、国際コンセンサスを元に作成されています。国際コンセンサスについては、3. 国際コンセンサス( CoSTR:コースター)とはで述べますが、世界の心臓救急の研究者・著名人が作成するものです。これをJRCが日本の状況に照らし合わせてローカライズし、JRCガイドラインが作成されます。
これも後に述べますが、日本以外の各地域や国にも蘇生ガイドラインがあります。蘇生ガイドラインは国際コンセンサスを元とし、その地域の状況、環境を考慮して作られます。
たとえば、日本では救急車が消防署にあるのが当たり前ですが、国によっては病院に救急車がある国や、救急車が有料の国もあります。このような環境によって取るべき処置が変わってくるため、各国や地域毎にローカライズする必要があるのです。
JRCガイドラインの元となる国際コンセンサスを作っているのが国際蘇生連絡協議会です。
筆者注記1:「コンセンサス」の意味
一般的な「コンセンサス」は、一致や合意の意味で使われますが、上記の「コンセンサス」は、専門家が知識や根拠に基づいて出すその時点における公式声明といった意味です。
2. 国際蘇生連絡協議会 (ILCOR:イルコア)とは
国際蘇生連絡協議会は、通称ILCOR(イルコア)と呼ばれます。国際蘇生連絡協議会(International Liaison Committee On Resuscitation)の頭文字を取った名前です。
イルコアは、世界各地の蘇生協議会を統合することを目的に1992年に発足しました。イルコアは蘇生や心臓救急に詳しい科学者たちから形成され、各地域(国)のガイドラインの基本となる国際コンセンサスを作成しています。
3. 国際コンセンサス (CoSTR:コースター)とは
イルコアが作成する国際コンセンサスの事をCoSTR(コースター)と呼びます。
(英訳:International Consensus Conference on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science With Treatment Recommendations)
イルコアが世界各地の論文をもとに、600人以上の人員をかけてトピックスを作り、5年毎にコースターを作成してきました。
2015年版のコースターは2015年3月のパブリックコメント掲載を経て、2015年10月15日にCoSTR2015として発表されました。このコースターに基づき、JRCガイドライン2015が作成されました。
パブリックコメントとは
パブリックコメントとは、広く公(パブリック)に、意見、情報、改善案など(コメント)を求める手続のことです。
いったん作成されたコースターはパブリックコメントで、一般大衆からの意見を集めます。その後、集まったパブリックコメントを反映し、正式なコースターが完成します。
4. 世界の蘇生委員会と相関図
上の図はイルコアに加盟している団体です。
図だと文字が小さいので、念のため各団体の名称を記載します。括弧内は日本語表記です。
イルコアに加盟している団体の名称
- AHA(アメリカ心臓協会)
- ERC(ヨーロッパ蘇生協議会)
- HSFC(カナダ心臓・卒中財団)
- ARC/NZRC(オーストラリア・ニュージーランド蘇生協議会)
- IAHF(南米心臓財団)
- RCSA(南アフリカ蘇生協議会)
- RCA(アジア蘇生協議会)
5. なぜ5年ごとに更新されるのか
世界各地で救急救命の事例は蓄積され、研究が進み、論文も発表されて最新の救急救命の方法がアップデートされているというのに、ガイドラインはなぜ5年もの長いスパンで更新されているのでしょうか。ガイドラインが普及していく流れを考えると長いスパンの理由が見えてきます。
新しいガイドラインが作成された後、救急医療財団によって救急蘇生法の指針が作られます。そして、消防庁や日本赤十字などの団体が救命講習の指導方法や内容を決めて、講習を通して一般市民に広まっていきます。ガイドラインが発表された後も、私たち一般市民まで浸透するのには長い時間が掛かります。
ここで、一般市民に浸透する前にガイドラインが変わってしまったらどうでしょうか?「私はこのやり方だ」、「いやいやこのやり方が最新だ!」と救命の現場で混乱が生じ、救命率が下がってしまう可能性も出てきます。こういった混乱を避けるため、ガイドラインが浸透する期間を考えて、現状5年に1度という更新頻度に落ち着いているものと考えられます。
筆者注記2
JRCガイドラインは2000から始まり、2005、2010、そして2015と更新されてきました。5年毎に更新されていますが、筆者の知る限りでは、5年毎に更新すると決まっている訳ではないようです。
まとめ
世界各国から有識者が集まり、医学的根拠と最先端の知識に従って話し合い、それを広く公開したのちコースターが生まれます。このコースターを基にして、日本に適している形を話し合い、出来上がったものがJRC蘇生ガイドラインです。
JRCガイドラインやILCOR、CoSTR等について書いてきましたが、ガイドラインの作成のされ方や、世界の蘇生協議会との関係が少しでも伝わったでしょうか。救命救急の世界も日々研究が進み、救命率を高める方法がアップデートされています。その結晶がガイドラインとなり、消防署などで学ぶ救命講習となって私たちに届いている流れが伝われば幸いです。