「サイレンを鳴らさないで来て欲しい」と119番通報をしたときにいったことないですか?
通報をしたことがない人からすると、「そんなことできるの?」と思いますし、「火事ですか、救急ですか?」の後って何を聞かれるのかいまいち分からない……。
119番通報すると、その地域の指令センターと呼ばれる場所に繋がります。通報した後の流れや、ガイドラインに新しく加わった口頭指導、通報時のアドバイスなど、そこで働く指令センターの方に話を聞いてみました。
インタビュイー:須藤 順(すどう じゅん)
千葉県柏市消防局警防課 柏市・我孫子市消防指令事務協議会 東葛消防指令センター 統括指揮官・消防司令長。柏市の消防局に勤務して37年。
インタビュアー:清水 岳(AEDガイド責任者)
司令長、今日は、よろしくお願いします。
こちらこそよろしくお願いします。
119番通報した際の流れは?
優しそうな方でよかった。
早速ですが、119番通報をかけた後の流れについて教えてください。
119番通報をかけると、管轄の消防指令センターへ連絡が入ります。そして、まずは「火事ですか?救急ですか?」とお聞きします。
救急か、火事か、レスキューかどの種別に該当するかを指令センターで判断します。
今回は、救急について詳しく聞かせてください。「救急です」と答えた後はどうなりますか?
次に現場の住所をお聞きします。
分からない場合には、近くの目的物や大きな建物などをお聞きして、救急車が向かう場所を特定します。
住所が次なんですね。この後はどうなるんですか?
傷病者の年齢や容体をお聞きします。
「意識はありますか? 反応はありますか? 呼吸がありますか?」と流れに沿ってお聞きします。
傷病者の人数によって救急車を何台出動させるかなども決めます。
傷病者の状態を確認するんですね。この時点では、まだ救急車は出ていないですか?
呼吸がない、意識がないとなれば、重篤な状態が予想されますから、出動を要請します。
救急の場合は、住所確認後に口頭指導が必要かどうかも判断します。必要があれば、それを実施します。
表1. 救急時の119番通報流れ
指令センターの口頭指導は?
口頭指導について、もう少し具体的に聞かせてください。指導が必要な場合というのはどのように判断されるのでしょうか?
一概にいうのは難しいですが、心肺蘇生法の講習を受けたことがなく、一緒にきちんと指導しないと何も分からないという場合が多いです。
心肺蘇生では、プロトコル(※1)がありますので、質問形式でフローチャートに沿って実施します。指令センター員皆が同じ口頭指導をできるようになっています。
- (※1)プロトコルとは
- プロトコルとは、緊急度の判定やその対応の手順書。知識や技術の標準化を指します。
均一した指導で差異がないようになっているんですね。
指導内容はどのようなものがありますか?
心肺蘇生の場合は、成人、小児のプロトコルもありますし、止血や気道異物除去などの応急手当に関するプロトコルなどがあります。
口頭指導が必要のない場合は、何をすれば分かっている人がいるときですか?
はい。看護士や医師の方がいる施設などでは、必要ないですね。確実に心肺蘇生が行われているということが確認できる場合もそうです。
「心肺蘇生は行われていますか? AEDの準備はありますか?」など聴取し、心肺蘇生や応急手当を実施している方へアドバイスのような指導を行う場合もあります。
「オートロックのマンションでは部屋にいてください。」などの指示もするんですよ。
指導が必要ない場合、電話を切ることはありますか?
必要ないと判断した場合はありえます。
ケースバイケースで、エピソードを聞いているうちに、救急隊や消防隊のサイレンが聞こえてきたら誘導してくださいと伝えたり、現場でひとりの場合は心肺蘇生法を続けるようお伝えしたりと、現場の状況やマンパワーなどに応じた指導を行います。
チームで動く
通報に対しては、救急と消防を同時に現場へ向かわせます。
え!? 消防隊も向かうのですか?
はい。PA連携(※2)といいます。消防と救急が連携して現場へと向かいます。
- (※2)PA連携とは
- PA連携とは、消防隊と救急隊が連携を行い、救急活動を行うことです。PAとは、ポンプ車(Pumper)と救急車(Ambulance)の頭文字を合わせたものです。
どうして、救急と消防の両方が向かうのでしょうか?
基本的には支援を行います。救急の場合は、救急主体で、火事の場合は消防主体で考えます。
たとえば、交通事故が起きていた場合では、消防隊が救急隊の安全確保を行います。
ちなみに、指令センターでは、119番通報を受けた方がひとりで対応しているんでしょうか?
いえ。ほかにも聞いている指令員がいて、同時に聞いている人を「モニター」と呼びます。
聞き取りしている内容の情報を照らし合わせ、場所が合っているかの確認などを行います。
常に複数人が待機。通報を取った人以外が「モニター」となり補助します。
なるほど。ひとりで行うのではないんですね。
モニターは通常は、8名で編成しています。
住所が全然分からないという場合には、モニター総動員で検索し、特定に走ることもあります。
すごい! チームで対応するんですね。
指令センターからの通報者へのアドバイス
119番通報する人は、緊張やパニックになっていると思いますが、アドバイスはありますか?
まずは、落ち着いて通報の住所を確実に伝えていただけると助かります。住所の特定が早ければ、より早く救急車を出動させることができます。
住所特定が早いほど、到着までの時間も短くなります。
住所の特定は本当に大事ですね。
携帯電話からの通報だと位置情報を使って検索もできます。これは、屋内と比べて屋外の方がやはり精度は高いです。
全く住所が分からないという場合には、近所の人(住所の分かる人)へ助けを呼ぶことを促したりもします。
だいたいの住所特定で救急車が出動することもあるのでしょうか?
絶対に出動しないということもないですが、基本的には正確な住所を特定してからとなります。
そうなんですね。その他にアドバイスはありますか?
パニックになっていて、一方的に、はじめから自分の伝えたいことを話したがるケースがあります。
順序を立てて聴取しますので、聞かれた質問に回答をしていただく方が救急車の早期到着につながります。
そういう方は、心配になって話したいことを話してしまうんでしょうね。
落ち着いて受け答えしてもらえれば大丈夫です。分からなくてもいろいろな質問をして状況を把握していきますので、安心してください。
有事のときこそ、パニックにならずできるだけ落ち着いて対応してください。
通報の判断はどうすればいい?
一般的に119番通報をするかどうかの判断はどうすればいいでしょうか?
同じ症状でも、人によって軽く判断する人、重く判断する人がいます。明らかに呼ぶべきか、呼ばないべきかというのは一概に判断できません。
ただし、意識がなくなった、呂律がまわらないというような場合は、緊急性を要しますので、呼んだ方がいいと思います。
「熱があって、夜にもっとあがるかもしれないので、救急車を呼んだ方がいいですか?」といった内容の場合は、医療機関への相談を案内する場合もあります。(※3)
- (※3) 迷った時は#7119があります。
- 医師・看護師・相談員が対応して緊急性の判断をしてくれます。緊急性が高くない場合には受診可能な医療機関の案内をしてくれます。#7119のほかにも地域で救急電話相談を行っているところがあります。
これもケースバイケースですね。
同じ症状でも、小児や高齢者の場合、重篤化しやすい場合などもあります。
ただ、依頼をされた場合には、救急車は必ず出動をさせます。
サイレンを鳴らさないのは法律違反
そういった通報を受ける中で、困った通報はありますか?
119番には、緊急回線が敷かれていて数が限られています。
いたずらはもってのほかですが、タクシー代わりでの利用といった不要不急の用件での通報も辞めていただきたいです。
119番通報は緊急通報ですからね。
あとは、サイレンを鳴らさないで来てほしいという依頼は数が多いかもしれません。ただし、それは道路交通法の違反になってしまいますので、お断りしています。
心肺停止などの重篤な場合であっても、サイレンを鳴らさないで来て欲しいという人もいます。
サイレンの話は体感2割くらい。でも、受けた通報に対しては、どんな内容でも対応します。
通報は、1日どれくらいの通報があるのですか?
平日で60~70件で、多いときで80件くらいあります。去年で救急件数が約2万件です。(※4)
(※4) 柏市・我孫子市内
思っていたよりも多かったです。1件1件対応されるとなるととても大変ですね。
大きい事故などは、同じ事故の通報がたくさん来ると思うのですが、どう対応されるのでしょうか?
通報は1件1件受けます。既に通報を受けている事案と同じであると確認ができれば、すでに出動手配をしていますとお伝えして切ります。
AED GOの取り組みについて
柏市では、今、「AED GO」(※4)の取り組みをしていますが、始めてからどうですか?
- (※4)AED GOとは
- アプリを使い、救急車の到着前にAEDを運搬し、救命率向上を目指したシステム。通信指令センターと連携し、登録した救命ボランティアに通知を発信し、AEDを持って現場へ駆けつけるよう依頼します。詳細は、こちら の記事で解説しています。
表2. AED GOの流れ
救命ボランティアの登録者数は増えています。
ただ、通報を受け指令をかけますが、事案全てに対応できているかというと、まだまだな状況です。もっとしっかりアピールしないとなと思います。
救急車が到着するまでの時間で、救命ボランティアが先に駆け付け、助けてくれる事案が増えるといいですね。
私も登録したのですが、指令はどのタイミングで飛ばすんですか?
AED GOの指令は、場所が特定でき、傷病者が反応がないと分かった段階でかけます。
消防、救急、AED GOで指令をいっぺんにかけます。
救急車が到着するまでの時間で、AED GOユーザーが先に駆け付け、助けてくれる事案が増えるといいですね。
ひとりでも、多く救命できればと思います。
皆で協力してひとりの命を救おうというのが、AED GOなので、理想的な形が構築できるようしていきたいです。
微力ですが、弊社も協力させていただきます。今日はありがとうございました。
よろしくお願いします。ありがとうございました。
最後に並んで撮影。
本インタビューのまとめ
- 119番は、聞かれたことに受け答えるだけで大丈夫。
- 早く救急車が駆け付けるために、住所をしっかり伝えることが大事。
- 状況や容体、その人のスキルに合わせた内容で口頭指導は全部教えてくれます。
電話の向こうでは経験豊富な指令員の方がチームであなたの通報に耳を傾け、最新の技術で必死に助けようと動いてくれています。
私たちも普段から、有事が起きた時のために、AEDの場所を覚えたり、救急車に道譲ったり、出来ることで協力してきたいですね。(いたずら電話、ダメ、絶対。)
機関名 | 柏市消防局、柏市・我孫子市東葛消防指令センター |
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住所 | 〒277-0827 千葉県柏市松葉町7丁目16-7 |
撮影協力
- 牧野 圭子(まきの けいこ)
- HP:https://photo-makinokeiko.com/
- Instagram:https://www.instagram.com/maki_tuku/
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