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人工呼吸用マスクの使い方知っていますか?

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人工呼吸は、心停止となった傷病者に酸素を供給する重要な手段です。とくに、子どもの心停止や溺水・窒息で心停止に陥った場合、呼吸ができずに心停止になっている可能性が高く、その場合は血液中の酸素が枯渇しており、人工呼吸の重要性が増します。

今回は、人工呼吸用のマスクについて筆者のおすすめとその使い方を説明します。

1. 人工呼吸はしなくてもよい?

JRC蘇生ガイドライン2015第1章「一次救命処置(BLS)」で人工呼吸に関して、次の記載があります。

訓練を受けていない市民救助者は、胸骨圧迫のみの CPR を行う。訓練を受けたことがある市民救助者であっても、気道を確保し人工呼吸をする技術または意思がない場合には、胸骨圧迫のみの CPR を行う。

(JRC蘇生ガイドライン2015第1章「一次救命処置(BLS)」4.胸骨圧迫と人工呼吸[ボックス4]より引用)

訓練を受けて技術と意思がある場合には、人工呼吸をするということが読み取れます。ぜひ講習を受けて、人工呼吸ができる技術を身につけましょう。

では、マスク(感染防護具)があれば人工呼吸ができるようになるでしょうか。

2. 人工呼吸用のマスクってなに?

「フェイスシールド」、「ポケットマスク」、「アンビューバックマスク」をあわせた画像

人工呼吸用のマスクは、人工呼吸を安全で効率的に行なうための道具です。タイプとしては、「フェイスシールド」や、「ポケットマスク」、「アンビューバックマスク」などといった種類があります。

フェイスシールドは人工呼吸補助具で、一方弁が付いており吐しゃ物などの逆流を防ぎます。救助者はフェイスシールド越しに傷病者の鼻をつまみ、口と口をつけて呼気を吹き込みます

ポケットマスクは傷病者の口と鼻から空気を送り込む一般医療機器の人工呼吸器具です。一方弁がついており、吐しゃ物や傷病者の呼気の逆流を防ぎます。

アンビューバックマスクは、救急隊や病院で使用されている一般医療機器の人工呼吸器です。

表. 人工呼吸用のマスク種類

フェイスシールドフェイスシールドのマスク
ポケットマスクポケットマスク
アンビューバックマスクアンビューバックマスク

2-1. 感染防護具とは

傷病者は、血液を流し、口の周りに吐しゃ物や唾液がついていることがあります。救助するにあたり、まずは周囲の状況を確認し、感染防護具などで自身を感染から守ることが重要です。

JRC蘇生ガイドライン2015第1章「一次救命処置(BLS)」には、以下の記載があります。

口対口人工呼吸による感染の危険性はきわめて低いので、感染防護具なしで人工呼吸を実施してもよいが、可能であれば感染防護具の使用を考慮する。ただし、傷病者に危険な感染症があることが判明している場合や血液などによる汚染がある場合は、感染防護具を使用すべきである。

(JRC蘇生ガイドライン2015第1章「一次救命処置(BLS)」4.胸骨圧迫と人工呼吸[ボックス4]より引用)

簡単に要約すると、次のようになります。

  • 感染の可能性は低いので、口対口の人工呼吸をしてもいいが、可能であれば感染防護具を使用する。
  • 傷病者が血液などに汚染されている場合は、感染防護具を使用すべきである。

2-2. 人工呼吸用のマスクはどれがいいの?

私のおすすめは、「ポケットマスク」です。

ポケットマスクは感染防護具のひとつで、街中のAED収納箱に格納されている場合もあります。今回は、ポケットマスクの使い方について詳しくご紹介します。

ポケットマスク

2-3. ポケットマスクの利点

筆者がポケットマスクをおすすめする理由は、次の2点です。

A. 傷病者と救助者との間に間隔がある

家族や友人など気心がしれた相手に人工呼吸をする場合は、抵抗感は少ないかと思いますが、会社の同僚が倒れた場合や、見ず知らずの傷病者に口対口の人工呼吸をすることは、心理的ハードルが高くなるのはご理解いただけると思います。

一般的、に救命講習で配布されるフェイスシールドは、直接は傷病者の口に触れませんが、一枚シールドを挟むだけで、距離は口対口とほぼ変わりません。ポケットマスクは、傷病者と救助者が直接口を付けずにすみ、かつ10cmほど間に間隔があります。

また、フェイスシールドと比較して目線が高くなることで、人工呼吸で息を吹き込んだ際に、傷病者の胸が上がっているかの確認がしやすくなります。

B. 持ち運びが可能

ポケットマスクは、縦15cm、長さ10cmほどの大きさであるものが多く、フェイスシールドよりはコンパクトではありませんが、日常的にカバンに入れて持ち運ぶことも可能です。また、AED収納箱に格納することやAEDキャリングケースに取り付けることも可能です。

2-4. ポケットマスクの組み立て方

ポケットマスクの構造は、「マスク部分」、「フィルタ部分」それから「呼吸バルブ部分」に分かれています。マスク部分は、ドームとクッションで構成されており、一体となっています。。(※メーカーによってはフィルタがないものもあります。)

1. まずはケースを空けます。

ケースは、ハードケースとソフトケースの物があります。

下向き矢印

2. ケースからマスク部分及び呼吸バルブを取り出します。

マスクとバルブを取り出したイラスト

このとき、呼吸バルブはまだマスク部分に装着されておりません。転がり落ちないよう慎重に取り出しましょう。

下向き矢印

3. マスク部分を組み立てます。

マスク部分を組み立てます。

ケース収納時はドーム部分がクッション部分に折り畳まれるように収納されています。フィルタがマスクドーム内側の接続部に確実に取り付けられていることを確認し、ドームを内側から外側に両手の親指で押し出して組み立てます。

下向き矢印

4. マスクに呼吸バルブを装着します。

マスクに呼吸バルブを装着します。

2-5. ポケットマスクの使い方(人工呼吸の方法)

1. 傷病者の顔にマスクをあてます。

傷病者の顔にマスクをあてます。

あて方ですが、マスクの縁を下唇と顎先の間にあてます(先の細いほうが鼻側)。

口と鼻を覆うように指でマスクを押しあてて、密着させます。うまく密着できていないと隙間から呼気が漏れます。

下向き矢印

2. 逆の手で傷病者のあごとマスクを挟むように持ちます。

逆の手で傷病者のあごとマスクを挟むように持ちます。

下向き矢印

3. 下のアゴを拳上して、気道を確保します。

気道確保されているイラスト

下向き矢印

4. 息を吹き込みます。

マスクは固定したまま口を離し、傷病者に入った呼気を排出させます。

1回に1秒かけて、胸が少し上がる程度に息を吹き込みます。マスクは固定したまま口を離し、傷病者に入った呼気を排出させます。

これを2回行います。仮にうまく胸が上がらなくとも胸骨圧迫を再開します。

2-6. ポケットマスクを購入したらやること

ポケットマスクを購入したら、そのままケースやAED格納箱などに収納してよいのでしょうか。それでも構いませんが、一度組み立ててみることを推奨します。

その理由は、筆者が購入したポケットマスクはケース内でビニール袋に梱包されていました。そして、マスクとピッタリ貼り付いて取り出すのに時間がかかりました。もしも、人工呼吸を行う直前にビニールから取り出そうとしたらどうなるか。ポケットマスクを使用する場面は、1秒を争う事態の時です。使用する場面を想定し、備えておくことが重要になります。

3. 人工呼吸用のマスクの再利用は可能?

人工呼吸用のマスクは、再利用できるのでしょうか。

3-1. フェイスシールドの再利用は?

フェイスシールドの再利用はできません。

消防署の講習でフェイスシールドをもらい、実際に救助活動で使用した場合は、申し出ると新品を支給してもらえるところもあるようです。

3-2. ポケットマスクの再利用は?

一方向弁のついた呼吸バルブ及びフィルタは再使用禁止です。

マスク本体は洗浄後、再使用可能ではありますが、傷病者の血液や唾液が付着している可能性が高く、取り扱いに注意が必要です。廃棄し再度購入したほうが無難といえるでしょう。

廃棄する際は、医療廃棄物として適切に処分しましょう。

まとめ

人工呼吸の重要性から、ポケットマスクの使い方について記載しました。ポケットマスクは口対口の人工呼吸と比べ、物理的な距離が空いており、感染防護や精神的な面からも「人工呼吸をする意思がある場合」に近づきます。

一方で、ポケットマスクの使用上の注意にも記載がありますが、適切な訓練を受けた人でなければ使うことはできません。ぜひ、ポケットマスクを使用する救命講習を受講して知識と技術を習得していただければと思います。

推奨

緊急事態に備える立場である医療従者や学校教職員は、人工呼吸を含めたフルサイズの蘇生法の実施が期待されています。意思の問題ではなく、しかるべき人工呼吸用デバイス・感染防護具を準備し、技術も習得しましょう。

ポケットマスクを用いた心肺蘇生の講習ができるところの一例

ポケットマスクを用いた講習は、アドライフではもちろん、消防庁の応急手当普及員講習やAHA公認のトレーニングサイトでも学ぶことが可能です。

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本記事に使用したポケットマスク

製造販売業者及び製造業者の氏名又は名称等

  • 京中貿易株式会社
  • レールダル メディカル ジャパン株式会社

※当記事は特定メーカーのポケットマスクを推奨してはいません

ポケットマスク使用上の注意

  • 使用前に変形、亀裂、破損、異物の付着及び汚れのないことを目視確認すること。異常がある場合は使用しないこと。
  • 一方向弁を使用する場合は、その接続が正確でかつ完全であることを確認してから使用すること
  • 適切な訓練を受けた人以外は使用しないこと。

参考文献

  • 「JRC蘇生ガイドライン2015」監修:一般社団法人日本蘇生協議会・発行:株式会社医学書院(2016年2月15日発行第1版第1刷)

この記事を書いた人

小山 立人

小山 立人

応急手当普及員、AHABLSプロバイダー、AHA CPRAEDコース、上級救命講習修了。 不整脈で突然の心肺停止となったが、周囲のサポートにより蘇生した経験を持つ。助けてもらった命を救命の普及に還元すると決意し、会社、家庭などの現場を想定して行う「シミュレーション講習」を提供している。

ツイッター:@oymt3
アドライフホームページ:https://add-life.jp/

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