オートショックAEDは、販売先が限定されていましたが、2024年6月にこれが解除されました。(参考文献※1)
オートショックAEDは、電気ショックが必要な傷病者に対してショックボタンを押さずとも電気ショックが流れるAEDで、心理的な負担が少ないといわれています。
今回は、自衛隊のメンタル教官を務めた下園先生に、「救助者はどこにストレスを感じるのか?」、「オートショックって使う人にとって心理的にいいの?」などオートショックAEDに焦点を当てて、お聞きしてきました。
インタビュイー:下園 壮太(しもぞの そうた)
特定非営利活動法人メンタルレスキュー協会理事長。元・陸上自衛隊メンタル教官。陸上自衛隊初の心理幹部として多数のカウンセリングを経験。東日本大震災時は、陸上自衛隊のメンタルヘルス施策に関する全般指示に関わる。現在は退官し、講演や研修、著作活動を通して独自のカウンセリング技術の普及に努める。近著に『クライシス・カウンセリング(上級編)』(金剛出版)
過去のインタビュー記事:AEDを使うときは「誰も手伝ってくれない」と思うべき。自衛隊メンタル教官が教える心構え。
インタビュアー:清水 岳(AEDガイド責任者)
下園先生、ご無沙汰しております。本日はよろしくお願いします。
お元気でしたか? こちらこそ、よろしくお願いします。
前回の先生にお聞きした記事は大変好評でした。
今回は、オートショックAEDの何が救助者に取っていいのか悪いのか、お聞きしたいと思います。
前回のインタビュー記事:AEDを使うときは「誰も手伝ってくれない」と思うべき。自衛隊メンタル教官が教える心構え。
はい、どうぞ。
”何が”ストレスになるのか?
一般的なAEDでは、救助者自らが電気ショックのボタンを押す必要があります。
「ボタンを押す」という行為に葛藤やプレッシャーを感じることが、ストレスになる可能性があると思うのですが、いかがですか?
- TIPS:一般的なAEDとは?
- 本記事内では、有事の際、電気ショックボタンを押して電気ショックを行う従来型のAEDを、オートショックAEDと区別して一般的なAEDと表現しています。
AEDの使用に伴う最大の心理的苦痛は、「自分が正しくAEDを操作できたのだろうか?」という不安と自責の念です。
電気ショックボタンを押すといった操作やプロセスが増えるほど、「本当によかったのか?」「正しい操作は何だったのか?」と悩むことになります。
電気ショックボタンを押す瞬間よりも、押した後に悩むことになるということですか?
はい。
清水さんは、AEDについてよーーーく知っていてお詳しいかと思いますが、AEDをよく知らない人が感じる心理的ショックというものは、終わった後正しくやれたかどうかです。
なるほど。
オートショックAEDは、ショックボタンがなく、自動で電気ショックが行われることが利点だといわれていますが、この点はどう思われますか?
非常にいいことだと思います。
電気ショックが自動で実施されるということは、実施者の操作手順が一つ減りますし、「後悔」のポイントが減少しますよね。
オートショックAEDは、電気ショックボタンを押す必要がありません。
救命知識の有無とストレスの相関
AEDをよく知らない人というお話がありましたが、「間違って不必要な人に電気ショックを与えてしまうのではないか?」など知識がないと不安に感じることがあると思います。
この部分についてはいかがでしょうか?
- TIPS:AEDの電気ショックについて
- AEDは、電気ショックが必要な場合にしか電気ショックを案内しません。電気ショックボタンの有無に関わらず、AEDが電気ショックは不要と判断した場合には、電気ショックボタンを押したとしても実行されません。
AEDについて曖昧に覚えている人や少しだけ知識のある人は、「このような場合、どうすればいいのか」という救命現場での不安は大きくなると思います。
しかし、「ショックボタンを押す」という手順が省かれることでその不安は軽減されるでしょう。
以前のインタビューでも、「きちんと」救命手順を覚えておくことが大事だとおっしゃっていましたね。
以前のインタビュー記事:AEDを使うときは「誰も手伝ってくれない」と思うべき。自衛隊メンタル教官が教える心構え。
そうです。しかし、AEDを使用する人の多くは、AEDの仕組みや救命のシステムには詳しくありません。
とくに、知識がない人の場合は、救命現場での行動に不安を感じるというよりも、救命後に色々と情報を調べ、自分の行為について不安になることが多いです。
たしかに。
その点でいうと、オートショックAEDは救命手順の行為が1つ省かれることになります。
後々の自責で悩んでしまったり、不安に感じたりすることをなくす効果がとても大きいと思います。
救助者は後から調べる
オートショックAEDの場合、電気ショックが必要と判断されると「3,2,1」とカウントダウンを経て自動でショックが行われます。
データ(参考文献※2)によると、電気ショックボタンのある従来型のAEDでは、電気ショックまでの時間は中央値で7秒ですが、20秒から30秒かかる場合もあり、場合によっては時間切れなどの理由でショックが行われていないケース(AEDが内部放電する)がありました。
- TIPS:オートショックAEDの電気ショック
- オートショックAEDは、電気ショックが必要時、「3,2,1」とカウントダウンの後、電気ショックがされます。これだけだと、危険な印象を受けますが、その前に、AEDは「患者から離れてください」と音声でもしっかりとガイダンスがあります。
ふむふむ、貴重なデータですね。
電気ショックボタンを「押す」という簡単な操作ではありますが、やはり救助者にとっては躊躇することが多いのだと思います。
先程のお話にもあったように、「ボタンを押さなければならなかったんだ」と後から知ってしまうと辛いのではないでしょうか?
救助者にとって、救命後にどうなったかというのは非常に関心のある事項です。
たとえ、その方がどうやっても助からなかったとしても、「自分のせいだ」、「あの時すぐに行動しなかったからこうなったんだ」というふうに考えてしまいます。
そういうものなのですね。
一般の人にとって、『電気ショック』という言葉も理解しづらいかもしれません。
何かとんでもないことが起こるかもしれないと考えてしまい、「どうなるんだろう?」「自分が下手に処置することで、かえってこの人が後で悪くなったりするんじゃないか?」と躊躇してしまうわけです。
たしかに、電気ショックという言葉だけ聞くと、怖いイメージを抱くかもしれません。
AEDはどっちがいい?
カウンセラーや先生の立場から見て、一般的なAEDとオートショックAEDでは、どちらがいいと思いますか?
圧倒的にオートショックの方がいいです。
極端な話、関わる余地がなければ、成功・不成功はあまり関係ないわけです。AEDの操作で重要なボタンを押すという行為がないことは、操作する人間のメンタルにとって非常にいいことです。
そうですよね。
少し話は変わりますが、「オートショック」に限らずカウンセラーの視点から見て、これからのAEDや一次救命の場に期待する機能はありますか?
初めてAEDを使う人前提のガイダンスが重要です。
というと、具体的にはどういったことでしょう?
たとえば、「オートショックが開始されました。救助者の方は何もする必要がありませんので、そのまま見守っていてください。」といったように、何をするのか、何もしなくていいのか、明確な指示が必要です。
現在のAEDも分かりやすくするため、メーカーが企業努力を重ねていますが、より具体的で明確なガイダンスがいいんですね。
ロボットのように動いて全部やってくれるようなAEDが一番いいんでしょうか?
- TIPS:AEDの音声ガイダンス
- AEDの音声ガイダンスは、機種により男声、女声と異なっていたり様々です。音声ガイダンスの内容については、一般社団法人日本蘇生協議会が約5年ごとに発表するJRC蘇生ガイドラインに沿った内容になっています。
技術的に難しいと思いますが、それはいいですね!
他にも、「上手にできました」ではなく、「ガイダンス通りに実施しました。責任はあなたにはありません」という言い方があると、救助者のメンタルにとって重要です。
救助者のメンタルのアフターケアの方法は?
救助にあたった方のどのくらいがメンタルの問題を抱えてしまう可能性がありますか?
また、メンタルケアでいい方法はあるでしょうか?
AEDを使用するような有事を経験しても、多くの人が1週間程度で気持ちの整理がつくものです。
しかし、不安の中でも特に大きいのは罪悪感です。
罪悪感ですか? どういうことでしょうか?
整理がつかない人は罪悪感を覚えて、「失敗したかもしれない」「あれは私の責任だ」といえなくなってきます。
そうして黙っているとどうなると思いますか?
うーん。
自分で処理するしかないので、どんどん不安になりますよね。
他人に打ち明けられない場合、「自分のせいで助けられなかったかもしれない。自分の責任なのに、そのことを誰にも言わずに隠している嘘つきだ」と、自分を責める二重の自責感に苛まれることがあります。
そんなに自分に苦しんでしまうんですね。
とすると、誰かに打ち明けるということは、大切なんですね。
その通りです。
自分が行った手順を専門家(救急のプロや医師)に確認してもらうことがケアにつながります。また、専門家に相談するのが難しい場合でも、カウンセラーに相談するなど、とにかく人に打ち明けるという行為が一番重要です。
なるほど!
先生は、以前に美容院感覚でカウンセリングを受けていいとおっしゃっていましたし、大半の人が気持ちに整理がつくとはいえ、気軽に相談して打ち明けてみるのがいいですね。
本日はどうもありがとうございました。
本インタビューのまとめ
オートショックAEDは心理的負担(ストレス)が少ない
オートショックAEDなら、ボタンを押す心配がないので、救助する人のストレスがグッと減ります。一般的なAEDに比べて操作が減ることは大きなポイントです。
カンタン操作
電気ショックボタンを押すことを躊躇してしまう人が減ることは、救助の成功率をアップさせるカギになっています。
知識は大事
操作が簡単だからといって、基本の救命知識が大事でなくなるわけではありません。しっかり学び、身に着け備えておくことが大切です。
心のケアも忘れずに
救助後の心のケアも重要。救助した後の不安や罪悪感に悩まされないよう、カウンセラーと話すなどして心の整理をしましょう。
下園先生は、悲惨な出来事でショックを受けている人を心理的に支え、カウンセラーを育てている専門家でもあります。もし、悩むようなことがあれば、一度相談してみるのはいかがでしょうか。
法人名 | 特定非営利活動法人 メンタルレスキュー協会 |
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URL | https://mentalrescue.org/ |
住所 | 〒160-0003 東京都新宿区四谷本塩町15-12カーサ四谷503 |
下園壮太公式HP | https://www.yayoinokokoro.net/ |
撮影協力
- 牧野 圭子(まきの けいこ)
- HP:https://photo-makinokeiko.com/
- Instagram:https://www.instagram.com/maki_tuku/
参考文献
- ※1.オートショックAED販売先等限定の解除と情報提供に関して(2024年6月21日 一般社団法人 電子技術産業協会 ヘルスケアインダストリ部会)
- ※2.AEDの販売台数と設置台数の全国調査(令和2年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)『市民による AED 等の一次救命処置のさらなる普及と検証体制構築の促進および二次救命処置の適切な普及に向けた研究』分担研究報告書)
- ※2.全国のAEDの販売台数調査と正確なAED設置台数の把握を可能にする体制と手法の検討;AEDの販売台数と設置台数の全国調査(令和4年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)
『市民による AED 等の一次救命処置のさらなる普及と検証体制構築の促進および二次救命処置の適切な普及に向けた研究』
分担研究報告書)
※リンクは2024年8月9日時点の確認内容となります。
注意事項
症状や治療については、必ず主治医の診断を受けてください。