あなたは、近くで誰かが倒れたときに、AEDを使って救命できますか?
AEDは、日本で50万台程設置されているといわれていますが、実際にAEDを活用できる人がどれだけいるかというと、非常に少ないのが現実です。
市民により目撃された心原性心肺機能停止者数28,834名のうち、AEDを用いて電気ショックが実施されたのはその中の4.2%(1,229名)というデータもでています
参照:「令和5年版 救急・救助の現況」の公表(総務省消防庁 令和6年1月26日)
使い方は簡単です。いざというときに備えて:確認しましょう。
当記事では、AEDを使用できる人が、少しでも増えることを願い、AEDの使い方をまとめました。いざというときに備えて一度確認しておいていただけたらと思います。
1.AEDの使い方 手順
AEDの使い方について、手順を順番に説明します。
1-1. 電源を入れる
AEDを使用するには、まずAEDの電源を入れます。電源の入れ方は、「電源ボタンを押すもの」、「蓋をあけるもの」、「レバーを引くもの」など種類があります。ボタンを押すものは、強めに長く押さないと電源が入らない場合もあるので、しっかりボタンを押すようにしてください。
電源の入れ方については、AEDの使い方って同じじゃないの!?電源の入れ方3パターン。の記事で詳しく解説していますので、あわせてお読みいただけたらと思います。
AEDは、電源が入ると音声ガイダンスがはじまりますので、ガイダンスに従って操作をしていきます。
「小学生〜大人」と「未就学児用」(ガイドライン2015年の「成人用」と「小児用」)の切り替えスイッチがついている機種だと、小学生〜大人モードに設定されているか未就学児用モードに設定されているかのガイダンスがありますので、正しいモードに設定されているかどうかを確認してください。適切でない場合は切り替えスイッチを切り替えます。
筆者注記1:電源を入れるだけ。
とにかく電源を入れましょう。電源を入れた後は、AEDが音声で使い方を教えてくれます。基本的に誰でも使えるように文字やイラストで「電源ON」などと書いてあります。「電源を入れ、ガイダンスに従う」ことが大事です。
※「未就学児用モード・電極パッド」は、ガイドライン2015年の「小児用モード・電極パッド」の名称で設置されているAEDがあります。同様に「小学生〜大人モード・電極パッド」は、ガイドライン2015年の「成人用モード・電極パッド」で設置されているAEDがあります。
日本光電製AEDの場合、AED本体のフタ部分にガイドラインマークが貼ってあります。
例:ガイドラインマークと切り替えモードの名称の違い(日本光電製AED)
ガイドライン2020 | ガイドライン2015 |
ガイドライン2020マーク | ガイドライン2015マーク |
未就学児用・小学生〜大人モード | 小児用・成人用モード |
1-2. 傷病者の状態を確認する
AEDの電源を入れる前に傷病者の意識や呼吸の確認をしているケースも多いと思いますが、AEDの機種によっては、電源を入れた後に傷病者の意識と呼吸を確認するよう促します。
確認の際は、傷病者に声をかけたり、肩を叩いたりして反応をみます。とくに、鎖骨のあたりを叩くと刺激が伝わりやすいです。はじめは軽く、それで反応がなければ強めに叩いて反応があるかどうかを確認してください。
呼吸の確認は、お腹が上下に動いているかどうかを見て行います。自身の腹を一度見てみると、よく分かりますが、呼吸がある場合は、腹が上下運動をしています。
また時間も大事です。呼吸の確認は、時間をかけずに10秒以内で判断しましょう。また、呼吸の確認に迷った場合は「呼吸なし」と判断し、胸骨圧迫をしましょう。胸骨圧迫とは心臓マッサージのことです。
医療従事者の場合は、脈があるかどうかを確認する方法もあります。
筆者注記2:呼吸の確認は口元だけで判断しないようにしましょう。
「死戦期呼吸」という症状があります。しゃくりあげるような呼吸のことをさしますが、心停止時に起こるこの呼吸は一見、呼吸をしているように見えます。
死戦期呼吸は口が動くので、パッと見たときに、息をしているようにも見えます。正常な呼吸か、死戦期呼吸か迷った場合には、胸骨圧迫(心臓マッサージ)してください。
1-3. 傷病者に電極パッドを貼る
意識・呼吸がない場合は、AEDを使用するために傷病者に電極パッドを貼る流れに入ります。電極パッドを傷病者に貼ると、AEDが心電図を読み取り、電気ショックが必要な心電図かどうかを判断します。
電極パッドを貼るためには、傷病者の衣服を脱がす必要があります。また、傷病者の胸部が汗や雨等で濡れている場合はタオルなどで拭き取って、できるだけ清潔な状態にしてください。
AEDの音声ガイダンス例1
「胸を裸にして、電極パッドの入った袋を取り出してください。」
「袋を破いて、パッドを取り出してください。」
「パッドをシートから剥がして、右胸と左脇腹に貼ってください。」
なお、AEDには、電極パッドがAED本体に接続されているモデル(プリコネクト式)と、AED使用時に接続するモデルがあります。
A. プリコネクト式の場合
プリコネクト式のAEDは電極パッドがAED本体に始めから接続されています。
電極パッドの袋を破り、パッドをシートから剥がして傷病者に貼ります。音声ガイダンスでそのように指示がでるので、指示に従ってください。新しいAEDはプリコネクト式のものが多いです。
B. プリコネクト式ではない場合
プリコネクト式ではないAEDでは、電極パッドの袋を破って電極パッドを取り出し、コネクタをAEDに差し込んで接続した後電極パッドを傷病者に貼ります。この場合も音声ガイダンスでそのように指示がでるので、指示に従ってください。
筆者注記3:電極パッド様式の現状
私は定期的に消防署でAEDの講習を受けていますが、私が行く消防署で使われているAEDはプリコネクト式ではありません。
新しいAEDはプリコネクト式が多いですが、AEDは耐用年数が7年程あることもあり、まだまだ古いタイプのAEDも設置されています。
だんだん設置されているAEDもプリコネ式に入れ替わってきており、今後、講習にもプリコネ式が使われるようになっていくとは思いますが、まだプリコネ式ではないAEDも多く設置されており、講習でもプリコネ式ではないAEDを使用している所が多くあるものと思います。
プリコネ式ではないAEDで講習を受けた人がプリコネ式のAEDをみると少々混乱するかもしれませんので、電極パッドが初めからAEDにささっているAEDがあることを知っておいてください。
電極パッドの貼り方
電極パッドは2枚あります。1枚のシートの裏表に貼られているケースと、それぞれのパッドのジェル部分にシートがついているものがあります。このシートをはがして、傷病者に電極パッドを貼ります。
パッドを貼る標準的な位置は、右胸の上部と、左わき腹です。ただ、貼り方について重要なことは、2つのパッドが心臓を挟んでいるかどうかということです。そのため左胸の上部と右わき腹に貼っても大丈夫ですし、未就学児の場合は胸と背中に貼ることもあります。
また、どちらのパッドをどちらに貼っても大丈夫です。パッドにはどこに貼るか絵がかいてあるケースが多いですが、そのパッドに書かれている図と反対の位置に貼っても大丈夫です。この場合は取れる心電図が反転するそうです。それによって心電図を正しく測定できないというわけではありません。
電極パッドを貼る位置
右胸の上部に貼る方は、鎖骨の下で胸骨の右側あたり、左わき腹に貼る方は、わきの下5~8センチ、乳頭の斜め下あたりが適切な場所です。
ただ繰り返しとなりますが、この位置について重要なことは、2つのパッドが心臓を挟んでいるかどうかです。
かなり大きく貼る位置がずれない限りは、心臓を挟んだ位置という条件は外さないと思います。そうであれば心電図はとれますし、電気ショックも実施できます。パッドを貼る位置にさほど神経質になることはありません。
ペースメーカーがある場合の貼り方
まれに胸部にペースメーカーが入っている場合があります。ペースメーカーが入っている場合はその部分が膨らんでいるのでそれと分かると思います。
そのときは、ペースメーカーのふくらみから数センチ離して電極パッドを貼るようにしてください。この場合も、2枚の電極パッドが心臓を挟む位置に貼られるようにしてください。
電極パッドを貼るときの注意点については、AED使用時の注意点。体の濡れ、胸毛が濃い、ブラジャーや女性へ配慮等。で、詳しくまとめていますので、詳細についてはこちらの記事をご参照ください。
1-4. 電気ショックを行う
パッドが貼られると、自動的に心電図の解析がはじまります。
AEDの音声ガイダンス例2
「体に触らないでください。心電図を調べています。」
このガイダンスの後、電気ショックが必要な場合は電気ショックをする流れに、必要ない場合は、胸骨圧迫をする流れになります。
電気ショックが必要な場合
電気ショックが必要な場合は、その旨のガイダンスがあります。電気ショックのためのエネルギーの充電のため、機種にもよりますが10秒程度充電が行われます。
傷病者に人が触れないように注意しながら、音声ガイダンスを待ってください。
AEDの音声ガイダンス例3
「電気ショックが必要です。」
「充電しています。」
充電が終わると、電気ショックのボタンを押すようガイダンスがあり、電気ショックボタンが点滅します。
AEDの音声ガイダンス例4
「体から離れてください。点滅しているショックボタンを押してください。」
電気ショックを行うときは、誰も傷病者に触っていないことを確認してください。
なお、電気ショックボタンが点滅していないときにボタンを押しても、電気ショックは行われません。また、電気ショックを促す音声がながれてから時間がたつと、充電したエネルギーが解放されます。解放までの時間が30秒ほどに設定されている機種が多いようですが、アナウンス後は誰も傷病者に触れてないことを確認した後、迅速にショックボタンを押すようにしてください。
電気ショックが必要ではない場合
電気ショックの必要がない場合も、その旨のアナウンスがあります。その場合は、胸骨圧迫を行う流れに移ります。胸骨圧迫を行うときも、電極パッドは貼ったままにしておいてください。
AEDは定期的に心電図を読み取ります。電気ショックが必要な状態になったときに、それを判断できるように、電極パッドは剥がさず貼ったままにしておくことがポイントです。
一度剥がしてしまうと、粘着力が落ち、傷病者の体にしっかり貼れなくなってしまう可能性もあります。電極パッドは貼ったら剥がさないことを心がけてください。
AEDの音声ガイダンス例5
「電気ショックは必要ありません」
「体にさわっても大丈夫です」
「ただちに胸骨圧迫を始めてください。」
筆者注記4:判断はAEDがします。
電気ショックが必要な場合は、「必要です」とガイダンスし、不要な場合は「不要です」とガイダンスします。見た目では電気ショックが必要な状態かはわかりません。医師ではない私たちはAEDを使用して初めて分かるのです。
1-5. 心肺蘇生(CPR)を行う
電気ショックを与えた後、あるいは電気ショックが必要ないとAEDが判断した後は、心肺蘇生を行います。上に書いたように、電極パッドは貼ったままで、ただちに胸骨圧迫と人工呼吸を始めます。
胸骨圧迫は1分間に100回~120回のリズムで、胸が約5cm沈む深さで続けます。この、「1分間に100回~」のリズムが分かるよう、AEDからリズムの音がでる機種が多いので、そのリズムに従って胸骨圧迫を続けてください。
人工呼吸は訓練を受けていて、人工呼吸を行える技術とその意思がある場合には、胸骨圧迫とあわせて人工呼吸を行います。
人工呼吸を行う場合、30回胸骨圧迫をしたら2回人工呼吸を行うことを繰り返すことを推奨しています。そこでAEDの音声ガイダンスでも、30回胸骨圧迫した後2回の人工呼吸を促すアナウンスが入ります。
訓練を受けていない救助者や人工呼吸を行う技術や意志がない場合は、胸骨圧迫のみの心肺蘇生法を行います。また人工呼吸を行う場合も、1回1秒ほどで実施し、終わったら間をあけずに胸骨圧迫を行います。
救急隊が到着するまでの行動
傷病者の意識が戻らない場合は、救急隊が到着するまでAEDの音声ガイダンスに従って胸骨圧迫と人工呼吸を続けてください。
傷病者のパッドは剥がさずに、AEDの電源はオンのまま、音声ガイダンスに従って胸骨圧迫を続けます。
AEDは定期的に心電図の解析を続けます。電気ショックが必要になった場合は、電気ショックを行う流れのガイダンスが流れますので、ガイダンスの指示に従って操作してください。
この時、傷病者の意識が戻って動けるようになっても、容態が急変する可能性もあります。この場合も、電極パッドは剥がさないようにしてください。AEDの電源もオンのままにしておいてください。
詳しくは、【公表】JRC蘇生ガイドライン2020を読み解く。一次救命処置の重要ポイント。で解説しています。
2. 未就学児に使用する場合の相違点
2-1. 未就学児用モードに切り替える
未就学児(小学校入学前)に使用する場合は、AEDを未就学児用モード(ガイドライン2015年の小児用モード)に切り替えて使用してください。オーソドックスなものだと小学生〜大人には150J(ジュール=エネルギー)、未就学児には50J程の電気ショックが与えられます。
未就学児用モードでは、小学生〜大人モードの1/3程度の電気ショックが与えられるよう設計されています。未就学児に小学生〜大人用の電気ショックを与えると、ショックが強すぎる可能性があります。電気ショックによって、未就学児の体が必要以上のダメージを受けないように、切り替えを行います。
未就学児用モードに切り替えると、未就学児用モードに設定されたことをガイダンスします。
AEDの音声ガイダンス例6
「未就学児用モードです。」
※(ガイドライン2015年のAED)「小児用モードです。」
また、音声ガイダンスも一部変わるAEDもあります。胸骨圧迫の深さなど一部において小学生〜大人と未就学児で異なる部分があるので、未就学児の場合は未就学児に適した内容のガイダンスが行われます。なお未就学児の場合は、胸骨圧迫の深さは5cm以上ではなく、胸の厚さの約1/3となっています。
未就学児用モードが無いAEDの場合
未就学児用モードがないAEDは、切り替えスイッチで切り替えるのではなく、未就学児用電極パッドを使用します。
小学生~大人用電極パッドではなく、未就学児用電極パッドの袋を破いてコネクタをAEDに接続し、傷病者に未就学児用電極パッドを貼ります。電極パッドが変わるだけで、音声ガイダンスや手順で変わるところは、とくにありません。ガイダンスに従って正しく操作してください。
なお、未就学児の傷病者に対して未就学児用の電極パッドがないというやむを得ない場合は、小学生~大人用電極パッドを使用しても罪にとわれることはないことになっています。
AEDを使用する状況は、電気ショックをしなければ助からない状況です。未就学児パッドがないからといって何もしないよりは、小学生~大人用の電極パッドを使用したほうが生存の可能性が高まると考えられます。
もちろん未就学児用パッドがあれば、それに越したことはないですが、やむを得なければ、小学生~大人用パッドで除細動するようしてください。
また、注意すべき点として、未就学児に小学生~大人用の電気ショックを与えた場合は救命される可能性がありますが、小学生~大人に未就学児用の電気ショックを与えた場合は、電気ショックが弱すぎて効果が出ないことが予測されます。くれぐれも小学生~大人に未就学児用の設定で電気ショックを行わないようしてください。
未就学児と小学生~大人の判断について
AEDの使用に関しては、小学校入学前が未就学児用モード(および未就学児用電極パッドを用いる)と定義されています。
この未就学児(小学校入学前)かどうかは見た目ではなかなか、判断しづらいところだと思います。AEDを使用するタイミングで傷病者の年齢が分かっている場合はよいですが、そうではない場合は体の大きさ等で判断することになります。
実際には年齢は低くても体の大きい子供もいますし、その逆もいます。なかなか判断のつかないケースが多いことが予想されますが、AEDを使用する状況は1分1秒を争う状況ですので判断に時間を使いすぎないように、迅速に決断するようにしてください。
この時の考え方の指針として、「電気ショックが強すぎると体にダメージがある可能性がある一方、弱いと有効な効果が得られず救命できない可能性がある」ということがあります。このことを考慮して私の場合は、迷ったら小学生~大人用モードで使用しようと考えています。
2-2. 体が小さい場合は体の前後ろに貼る
体が小さい乳児や未就学児の場合、右肩と左わき腹に電極パッドを貼ると、電極パッド同士がくっついてしまうことがあります。パッドがくっついてしまうと正しく電気ショックができず危険ですので、そういう場合は、胸側と背中側に貼るようにしてください。
その場合、図のように胸の真中と、背中に貼ります。この時も2枚のパッドが触れ合うことが無いように注意してください。
電極パッドを貼るときの例
パッドには、貼る場所の図が書いてある場合が多く、貼る場所に区別があるように感じてどちらをどちらに貼ったらよいか迷うケースがありますが、どちらのパッドを胸に貼っても背中に貼っても大丈夫です。
未就学児の場合でも、体が大きく2枚のパッドを胸側にはってもパッドが重なったり接触しなければ、小学生〜大人と同じようにパッドを貼って大丈夫です。
未就学児や乳児への救命手順については、より詳しくは、小児・乳児の救命手順、小児一次救命処置(PBLS)【特に乳児の保護者様へ】で解説しています。
まとめ
AEDの使い方の一連の流れをまとめました。基本的には、AEDの電源を入れてその後AEDからの音声ガイダンスに従って操作するだけですが、AEDを使用する場面が命に関わる1分1秒を争う状況であることを考えると、なかなか冷静に作業を進められるとも限りません。
また、当記事内に注意点もいくつか書かせていただきましたが、ちょっとした無知が混乱につながり、救命活動に支障やタイムロスを発生させてしまう可能性もあると思います。
注意点を知っておくことで混乱することなく、スムーズに救命活動を行えると思いますので、ぜひ確認しておいてください。また、手順については定期的に確認し、イメージして、いざというときにスムーズに対応できるようにしておいていただけたらと思います。
文中に、関連リンクも紹介しておりますので、あわせてお読みいただければ幸いです。