テレビや映画で胸を押さえて倒れこむシーンを見たことはありませんか? 治療が遅れると、心臓突然死にも繋がる怖い病気。それが心筋梗塞です。
心筋梗塞は、普段の生活習慣が大きく関係します。今回は、心筋梗塞にならないために、予防策を5つまとめました。
心筋梗塞になる危険因子は動脈硬化です。動脈硬化を予防する観点から、コントロール可能な予防策として、生活習慣に焦点を当てています。
本記事の要点:心筋梗塞の予防
筆者は生活習慣がよい方だとは口が裂けてもいえない生活スタイルです。本記事は、筆者を含め心筋梗塞のリスクを避けるために、日ごろからできる予防や普段の振り返りとしてみていただけたらと思います。
1. そもそも心筋梗塞はなぜ起こる?
心筋梗塞を予防するために、まず心筋梗塞がなぜ起きるかを知りましょう。
心筋梗塞の根本的な原因(危険因子)は、「動脈硬化」です。動脈が硬くなると、血液は流れにくくなり、血管内にコレステロールや脂質がたまり、やがて「プラーク」と呼ばれるが丘ができます。このプラークが破れたことによる出血が固まると「血栓」ができます。そうして血管が詰まります。血管が詰まると心臓の筋肉、心筋が壊死して心筋梗塞に陥ります。
こちらの詳しいメカニズムについては、心筋梗塞の症状とは。狭心症との違いや発作の特徴など。にて、解説しています。
動脈硬化が要因となりうる疾患
「動脈硬化」は、心筋梗塞や狭心症をはじめとする心臓病だけではなく、脳梗塞、大動脈瘤、腎硬化症など、あらゆる疾患の原因ともなります。
動脈硬化によって、血管内が狭くなったりや閉塞することによって起こる主な疾患を以下に挙げます。
動脈硬化によって起こる疾患
- 心筋梗塞
- 狭心症
- 脳出血
- 脳梗塞
- ラクナ梗塞
- 大動脈瘤
- 大動脈解離
- 腎硬化症
- 腎血管性高血圧
- 閉塞性動脈硬化症
よく聞く病名から、聞きなれないものまであるかと思いますが、かなりの数です。
動脈硬化を引き起こす危険因子には、高血圧や脂質異常症、糖尿病、喫煙、肥満などがあります。それらを改善・治療することが、心筋梗塞の予防につながります。それでは、予防法を見て行きましょう。
2. 心筋梗塞の予防法
心筋梗塞の予防は、「動脈硬化の予防」、そして、「毎日の生活習慣の見直しが必要」となります。今回は、動脈硬化の一次予防として代表的な5つのポイントをあげました。それぞれ見ていきましょう。
2-1. 運動不足の解消
日常的な運動や、活発に身体を動かすことで、高血圧、糖尿病、肥満脂質異常症などの動脈硬化の危険因子を軽減します。
筆者は以下のような日常が、習慣化してしまっています。
- 「稀に運動する程度」
- 「朝は車で出勤」
- 「デスクワークで1日中机の前」
- 「仕事が終われば、また車で家に帰る」
- 「疲れたのでそのまま就寝」
普段から歩くことや、運動することがありません……。このような生活スタイルのループになっている方も多いのではないでしょうか。
では、1日どのくらいの運動をすればよいのでしょうか? 「虚血性心疾患の一次予防ガイドライン」によると、3METs 以上の活動で1日約 60 分とあります。
「METs」とは、「Metabolic Equivalents」の略で、安静時の何倍のカロリーを消費しているかを表した数値です。METs についての運動量は下記表のようになります。
参考:METs による運動量の例
METs | 例 |
---|---|
1.0 | 横になってテレビを見る・読書・音楽鑑賞する・ビデオゲーム |
2.0 | 徒歩や乗り物を使って旅行する・自転車や軽トラックの運転・楽器演奏 |
3.0 | ゴルフ (打ちっぱなし)・釣り・ボウリング・犬の散歩 |
4.0 | 洗濯物を干す・卓球・バレーボール・子どもと遊ぶ (ややきつい) |
5.0 | ソフトボール・野球 |
6.0 | 屋根ふき・シャベルでの雪かき・レスリング (1試合) |
7.0 | スキー・一般的なジョギング |
8.0 | ランニング・テニス(シングルス) |
10.0 | ラグビー・サッカー |
(出典:国立健康・栄養研究所 改訂版『身体活動のメッツ(METs表より抜粋)』)
家で座ったり、横になったりしているような安静時を 1METs としますので、3METs はその3倍カロリーを消費しなければいけません。
3METs 以上消費するには、歩行中心で考えた場合、8,000~10,000 歩です。その他は、ゴルフのラウンドや、サイクリング、エアロビクス、子どもと屋外で遊ぶなどが 3METs 以上です。
目安の運動量は、1日当たり約60分の運動が必要ですが、METs の高い運動方法では、ジョギングやテニスで35分程度となります。
持病がある場合は急な運動を始めるまえに医師に相談しましょう。
狭心症や糖尿病などの持病がある場合には、医師に相談しましょう。また記事を読んで運動不足が気になり、急に激しい運動をしたり、持病が悪化するようなことがないように、心配な点は医師に相談し、病気を患っていない人も自分にあった運動方法を探すのがいいと思います。
2-2. 食事の見直し
続いて食事の見直しです。一言でいうと、栄養をバランスよく取りましょう。栄養素には、エネルギー、タンパク質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルなどがあります。これらの栄養素を毎日バランスよく摂取することが大切です。
バランスよくといわれても、
- 「最近野菜食べてないから、野菜ジュース飲んでおこうかな」
- 「脂身を食べないようにする」
- 「昨日トンカツだったから、今日は揚げ物を避けようかな」
といった程度で、ビタミンやミネラルまで気にしたことがないのが正直なところです。
さらに、食物繊維、ポリフェノール、植物ステロールなど「非栄養素食物成分」の摂取も必要で、さらにさらに、消費エネルギー量に見合ったエネルギー量を摂取する必要もあります。
筆者のようなズボラな方のために、農林水産省の「食事バランスガイド」をご紹介します。1日に何をどれだけ食べればよいか分かるイラスト付きです。ご参考にどうぞ。
出典:農林水産省Webサイト「食事バランスガイド」について
(https://www.maff.go.jp/j/balance_guide/)
2-3. 禁煙
喫煙は、心筋梗塞や狭心症の発症率を高めます。さらに1日の喫煙本数に応じて危険度も高まりますので、多くタバコを吸う人ほどリスクが上がります。
また、喫煙者本人だけでなく、その家族や同室者などへも喫煙の弊害があるため、非喫煙者でも受動喫煙に注意が必要です。
禁煙治療には、「ニコチン依存症」と見なされた場合には、医療保険が適用されます。禁煙をしたいけれど、自力では難しいと感じる場合には医師に相談しましょう。
ニコチン依存症かどうか判断するためのテストがあります。以下の質問でチェックが5個以上になった場合はニコチン依存症です。簡単なテストですので、喫煙者の方は行ってみてください。
ニコチン依存症のスクリーニングテスト
以下の設問で該当する項目には、チェックを入れてください。
※5個以上の場合は、ニコチン依存症です。
出典:禁煙治療のための標準手順書 第6版 p6より引用 (https://www.jca.gr.jp/researcher/smoking/files/manual_smoke_06.pdf
増えてきた禁煙外来
役所のホームページに禁煙外来のページが出来るなど、特別なクリニックに行かずとも禁煙外来を扱う医療機関が増えてきました。どこに掛かったら良いか分からない方は、お住まいの役所に相談してみるのはどうでしょうか。
ご参考までに、千葉県の柏市役所 禁煙外来のページです。
柏市Webサイト:禁煙外来について
2-4.高血圧、糖尿病、脂質異常症(生活習慣病)の改善
高血圧、糖尿病、脂質異常症、これらは「生活習慣病」に代表される症状です。基本的に、食事療法、運動療法を中心に行います。続けても改善しない場合や、必要が有る場合には、薬を使ってコントロールします。
食事療法とは?
「食事療法」は、総摂取エネルギーと栄養素配分の適正化です。1つずつ見ていきましょう。
総摂取エネルギー
取れるエネルギー摂取量を計算し、適度な量の食事を取ることになります。計算方法は、標準体重 × 25 ~ 30(kcal)で測ることができます。具体的な計算方法以下です。
まずは標準体重を出します。
1. 身長【 m】×.身長【 m】×22=標準体重
例:167センチの場合、1.67 × 1.67 × 22 = 61.3kg
次に適正エネルギー摂取量を出します。
2.標準体重 (上で求めた数値) × 25~30 = 適正エネルギー摂取量
例:61.3 × 25 = 1532.5kcal。多くても61.3 × 30 = 1839kcal です。
結構少なく感じませんか?これは牛丼1杯が約850キロカロリーですので、牛丼1杯で1日で取れるカロリーの半分以上を使ってしまうことになります。
実際にあなたの標準体重と適正エネルギー計算してみよう。
あなたの身長を入力すると、標準体重と適正エネルギー摂取量が自動で計算されます。
栄養素配分
栄養もバランスよく取ることが必要になります。炭水化物60%、タンパク質15~20%、脂肪20~25% といった制限をおこない、タンパク質1つ取っても、牛・豚・鶏肉よりも魚や大豆を多く取るようにするなど細かい指定がはいります。その他にも以下の制限が必要になってきます。
- コレステロール:1日300mg以下
- 食物繊維:25g以上
- アルコール:25g以下(他の合併症を考慮して指導する)
- その他 :ビタミン(C,E,B6,B12,葉酸など) やポリフェノールの含量が多い野菜,果物などの食品を多くとる (ただし,果物は単糖類の含量も多いので摂取量は1日80~100kcal以内が望ましい)
運動療法とは?
最大酸素摂取量の約50%の運動強度(持続的な運動でややきついと感じるレベル)で、出来れば毎日30分以上、週180分以上の運動を取る必要があります。運動の種類で例えると、水泳やサイクリング、社交ダンスなどです。
食事療法と運動療法は、継続することが肝心です。また、これらの療法で難しい場合などは薬物療法を行う場合があります。
高血圧、糖尿病、脂質異常症の治療について
脂質異常症 | 食事療法と運動療法による食生活改善を行います。 |
---|---|
高血圧 | 生活習慣の改善として食塩摂取量の制限や運動療法を行い、適正体重を維持しながら、アルコール摂取量の制限や、喫煙者の場合は禁煙の指導を受けます。 |
糖尿病 | こちらも食事療法・運動療法がメインとなります。2~3カ月で改善しない場合は、インスリンの分泌状態や抵抗性を判断して薬を選び、薬物療法を開始します。 |
2-5. ストレス解消
ストレスが虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症など)の発症要因であることは明らかになっています。その為、「精神保護」としてストレスへの対応を行い、上手く付き合っていく必要があります。
社会人であれば、職場環境などによってストレス度も変わってきます。長時間労働を避け、休日・休息を確保することを目標とするなど、企業が支援を行っていくことが望ましいとされています。
あなたのストレスが簡単チェックに出来るものがあります。厚生労働省が行っている【5分でできる職場のストレスチェック – こころの耳 】です。ひとつの設問に対して、4つの選択肢からひとつ選ぶだけですので、簡単です。
このチェックは、単にストレス度が出るだけではなく、イライラ感、疲労感、不安感などと言ったあなたが感じるストレスの種類や、その因子となりうる原因、そして、精神保護できるストレスケアのアドバイスももらえます。ぜひ行ってみてください。
まとめ
心筋梗塞の予防に繋がる生活習慣の改善方法を、実際に行われる治療方法などを基にまとめてみました。自分の生活リズムを変えるのは非常に難しいですが、心筋梗塞などの大きな病気になってしまう前に、普段を振り返るきっかけになれば幸いです。
参考文献
- 「ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)」日本循環器学会
- 「虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)」日本循環器学会
- 「健康ライブラリー イラスト版 狭心症・心筋梗塞 発作を防いで命を守る」講談社(2017年9月発行)
- 「専門医のための循環器病学」医学書院(2014年4月発行)
- 「今日の循環器疾患治療指針(第3版)」医学書院(2013年1月発行)
- 「病気がみえる vol.2 循環器 第4版」メディックメディア(2017年3月発行)
- 「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』(2012年4月11日改定)」国立健康・栄養研究所
- 厚生労働省 e-ヘルスネット https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-004.html
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