【蘇生ガイドライン2025】一次救命処置の変更点とは?
2025年10月、日本蘇生協議会が「JRC蘇生ガイドライン2025」のオンライン版を公開しました。このガイドラインは、日本における救急・蘇生の指針で、5年ごとに科学的根拠に基づいて改訂されています。
本記事では、特に一般市民が現場で行う一次救命処置(basic life support:BLS)に焦点をあて、JRC蘇生ガイドライン2020からの変更点をわかりやすく解説します。
当記事は、JRC蘇生ガイドライン2025オンライン版の内容に基づいて作成しています。
オンライン版は今後パブリックコメントを受け、2026年3月に書籍として完全版が発行される予定です。内容が一部変更される可能性があります。
1. 市民用一次救命処置(BLS)の変更点
市民用一次救命処置の流れ自体に大きな変更はありませんが、JRC蘇生ガイドライン2025では4つのポイントが追記されました。
1-1. AED使用時の服の着脱に関する追記

「適切な位置の素肌にパッドを貼ることができれば服をすべて脱がさなくてもよい。」という文章が追記されました。
近年、AED使用率において男女差が問題視されています。女性の服や下着を脱がせることに抵抗を感じることが一因とされ、多くの自治体で女性に配慮したAEDの使用方法が広がりつつあります。(※1)
しかし、実際の救命講習では男性マネキンを使用し、服をすべて脱がせて貼る指導が一般的です。現場で女性傷病者を前にしたときに、対応に迷うことも少なくありません。
今回の追記は、こうした背景を受け、女性に対しても迷わず行動できるようにし、AEDの使用率を高めることを目的とした内容だと考えられます。今後、服を脱がさずに貼る方法や女性マネキンの導入など、より実践的な講習が広まることが期待されます。
※1. 参考:女性に配慮したAEDの使用方法について|東京都多摩府中保健所
1-2. 死戦期呼吸に関する追記

「突然の心停止の直後には死戦期呼吸、すなわちしゃくりあげるような不規則な呼吸が時折みられる。これを市民救助者は「呼吸をしている」と誤って判断して見逃すことがあるが、このような普段どおりでない死戦期呼吸を認めた場合もCPRの適応である。」という文章が追記されました。
呼吸の確認と心停止の判断をする際、傷病者に反応がない場合は、胸と腹部の動きに注目して呼吸を確認します。呼吸がない、普段どおりでない、または判断に迷う場合は心停止と判断し、ためらわず心肺蘇生法(CPR)を開始します。
JRC蘇生ガイドライン2025では、普段どおりでない呼吸の代表例として死戦期呼吸について言及されました。死戦期呼吸の存在を知り、普段と違う呼吸だと気づくことで、救える命があります。もし自分だけの判断で不安なときは、119番通報で通信司令員に助言を仰ぎましょう。
死戦期呼吸について詳しく知りたい方は、死戦期呼吸とは?普段どおりではない呼吸の見分け方をご覧ください。
1-3. 胸骨圧迫のリスクに関する追記

「心停止ではない場合でも、胸骨圧迫によって傷病者に傷害が発生するリスクは低く、救助者は恐れずに胸骨圧迫を開始すべきである。」という文章が追記されました。
胸骨圧迫は、一次救命処置において最も重要な処置です。心停止かどうか判断に迷ったときも、ためらわずに行うことが基本とされています。ただ、実際に傷病者を目の前にすると、本当に心停止しているのか、胸骨圧迫で悪化させてしまわないかと不安に感じることもあるかもしれません。
しかし、心停止している場合、何もしなければ1分ごとに救命率は約10%低下します。(※2)
JRC蘇生ガイドライン2025で胸骨圧迫による傷害リスクが低いことが明示されたことで、救助者の不安が少しでも和らぎ、迷わず胸骨圧迫を行える人が増えることが期待されます。傷病者の命をつなぐためには、勇気を持って行動することが何より大切です。
※2. 参考:心臓突然死の現状|公益財団法人 日本AED財団
1-4. オートショックAEDに関する追記

「ショックボタンを押さなくても自動的に電気ショックを行う機種もあり、その際もAEDの音声メッセージに従う。」という文章が追記されました。
オートショックAEDは、2021年から日本国内で制限付きで販売され、2024年6月に販売先の制限が解除されました。少しずつ街中で目にする機会も増えてきており、今後はさらに広まっていくと予想されます。
オートショックAEDは全メーカー共通のロゴがあり、ひと目でわかるようになっています。また、JRC蘇生ガイドライン2025でも示されているように、どのAEDも音声メッセージに従って操作できるため、AEDの指示に従うことが重要です。
オートショックAEDについて詳しく知りたい方は、オートショックAEDの普及が進む?販売開始から設置先の限定解除まで徹底解説をご覧ください。
2. 市民用一次救命処置(BLS)の最新フローチャート
JRC蘇生ガイドライン2025では、AED使用時の服の着脱に関する注釈がフローチャートにも追記されました。これを踏まえ、弊社の一次救命処置フローチャートも最新内容にアップデートしています。日常の備えに、ぜひご活用いただければと思います。
※参考:JRC蘇生ガイドライン2025 オンライン版 市民用のBLSアルゴリズム
3. JRC蘇生ガイドライン2025の一次救命処置手順
以下は、一般市民が行う一次救命処置の手順です。追記されたポイントを意識しながら実施してください。
- 周囲の安全確認
- 反応の確認
- 119番通報・AED手配
- 呼吸の確認と心停止の判断 (死戦期呼吸に注意)
- 胸骨圧迫 (傷害が発生するリスクは低いため恐れず行う)
- 胸骨圧迫と人工呼吸
- AED (服をすべて脱がさなくてもよい、AEDの指示に従う)
- 一次救命処置を継続する
手順の詳細については、2026年春の完全版発行後、改めてJRC蘇生ガイドライン2025の一次救命処置手順の記事を作成予定です。
4. まとめ
心停止に陥った場合、何もしないと1分ごとに救命率が約10%低下します。その場に居合わせた人の行動が、命を救う大きな要因となります。そのとき、何をすればよいか。JRC蘇生ガイドラインはそれを指し示す大事な指針です。
JRC蘇生ガイドライン2025の追記からは、「救助者の不安やためらいを減らし、救命率を上げたい」という思いが伝わってきます。今後このガイドラインが社会に広く浸透し、女性への対応やAEDの使用が当たり前になることで、救命率の向上につながることを期待しています。


