AEDの電気ショックを受けた人に会ったことってありますか?
「駅でAEDを使っていた」といった話題をSNSで見かけたことや、「居合わせた人が男性を救助」といった救命・救助に関するニュースを耳にしたことがあると思います。
そのとき、表彰されたり、ニュースに出たりするのは、救助に携わった方が多く、AEDの電気ショックを受けた人にはなかなか会うことはありません。今回は、心停止されてAEDを使われた経験をもつ小山さんにお話を聞いてみました。
※本記事では、表現上「AEDを使われた」という表記をしています。
インタビュイー:小山 立人(おやま たつと)
アドライフ代表。マラソン大会に参加中、不整脈となり突然の心停止となる。幸いにも周囲の懸命なサポートにより蘇生。「自分はなぜ生き返ったのか」を考え、助けてもらった命を「救命法の普及」に還元すると決意。現在は、企業や個人向けに「シミュレーションを取り入れた現場に則した講習」を提供。
インタビュアー:清水 岳(AEDガイド責任者)
職業柄、AEDを使ったという人にお会いしたことはあるのですが、AEDを使われた人にお会いするのは初めてです。
今日は、よろしくお願いします。
こちらこそよろしくお願いします。
無理して出場したマラソン大会中に……
早速ですが、倒れたときの状況を詳しくお話いただけますか?
はい。
当時(2018年10月)は、痩せないといけないなと思っていてダイエット目的で、頑張るモチベーションにもなるかと思い、ハーフマラソンの大会にエントリーしました。
すみません。大変お聞きしにくいのですが……。
太っていたっていうとどのくらいですか? マラソンをされるくらいなので、そこまで太られてはいないと思いますが……。
BMIだとぎりぎり肥満にならないくらいでした。
普段は、運動もほとんどしていなかったので、大会の3カ月前くらいから10kmくらい走るようにして練習していました。
私もマラソン始めないとまずいかも……。
準備されて大会に臨まれたんですね。
ええ。ただ、当日は風邪かは分からないですが、だるさがあって風邪薬を飲んで参加しました。
会社の同僚とエントリーをして、最寄り駅を降りたまでは記憶にあるんですが、じつは、どこまで走ったかとかは記憶にないんですよ。
え……。この先インタビュー大丈夫!?
えぇ!? 記憶がないんですか?
当時の大会の記録では、1時間を超えたぐらいで棄権という扱いになっていますね。
15km過ぎくらいで倒れたらしいです、本当に覚えてないんですけど(笑)
一緒に参加した同僚から聞いた話だと、10km過ぎ付近で私が同僚を抜かしたらしいんですけど、逆に15kmくらいで抜き返されたらしくて。調子悪いのかなぁ、とか思ったそうなんです。
その後、誰か倒れたらしいよと聞いたらしいですが、まさかそれが私だとは思わなかったといっていました。
近くの人が助けてくれたのでしょうか?
走っていたランナーが胸骨圧迫をしてくれて、後から事務局の方がAEDを持ってきて使っくださったそうです。
救急隊が来た頃には、自己心拍を開始していたそうです。ずっと胸骨圧迫はされていたんですが、AEDを使うまでには10分から15分くらいはかかっていたらしいです。
心肺蘇生とAEDは早い方がいいといわれていますよね。
倒れる予兆はあるのだろうか?
普段から運動はされていたんですか?
高校まではサッカー、大学では水上スキーをやっていて体力には割と自信はありました。
風邪っぽいだるさがあったとのことでしたが、倒れる予兆みたいなのはありましたか?
いえ。喉が痛くて体が重かったんですが、症状的には風邪だと思うんですよね、たぶん。
その程度で、胸がキリキリ痛むとかの感覚は、ぜんぜんなかったですね。
体調不良だったとはいえ、まさか心停止になるとは思いませんでした……。
健康診断は特に問題なかったですか?
健康診断や医師から指摘はされたことはありません。心電図も特に指摘されたことはなかったので健康だと思っていました。
ただ、2年くらい前にストレスを強く感じている時におかしいなと思うことがあって……。
脈が飛ぶような感覚もあり、不整脈を疑って、クリニックに行って検査しましたが、なにもないという結果だったので問題ないと思ってました。
クリニックで検査しても、何もなかったんですね。
狭心症や心筋梗塞といった診断を受けたことはなかったですか?
はい。ありません。
ここは〇〇病院です。あなたは運ばれました。
病院に運ばれた後のお話についても、詳しくお聞きしてもいいですか?
目が覚めたときは、どういう状態でしたか?
一番はじめに記憶で残っているのは、病院のベッドの横に日付が書かれた紙があったことでした。
その紙には、「ここは〇〇病院です。あなたは〇〇病院へ運ばれました。」といった記載もあって、そういう状態なんだなと知りました。
そういうのがあるんですね!
そうですね、メモ帳のような紙でありました。
心停止の事実を知って、ショックは受けませんでしたか?
私自身はそうでもなかったです。
ただ、目が覚めたのは倒れてから3日後で、連絡を聞いて駆けつけてきた妻に泣かれてしまって。迷惑をかけたんだなぁっていうのは痛感しました。
記憶がないということでしたが、当時のお話はどなたから聞いたんですか?
医師の診断書(家族への説明書)に書いてありました。どういう状態で搬送されたみたいな内容が詳しく。
当時の書類を全て保管しているそうです。
あー、AEDの使用についても書いてありますね。心室頻拍か心室細動(※1)してたんでしょうね。
- ※1. 心室細動と心室頻拍
- 心室細動と心室頻拍は心停止の一種です。どちらもAEDの除細動が適応となります。詳しくは、AEDが適応可能な症状とは。心電図で見る4種類の心停止。の記事で解説をしています。
はい。電気ショックを行ったことも書いてあります。
実は、心臓に異常があったんです。
心停止の原因は分かっているんですか?
診断書に書かれていたんですが、血管に先天的な異常があったようです。
どうやら生まれつき心臓の血管が本来あるべきところに繋がっておらず、それによって血流が悪いところがあり、体調やマラソンによる負荷がかかったことによって、血液が全身にまわらなくなる虚血性の心停止でした。
医師からも問題ないといわれていても、分からなかったんですね……。入院された後はどういう流れになったんですか?
運ばれた後に心臓のカテーテル検査(※2)をしたところ、本来、血管内でカテーテル通れるところが通れないという部分が見つかったんです。
- ※2. カテーテル検査とは
- カテーテルと呼ばれる細長い管を、血管に通し、細い部分や詰まっている部分があるかなどを調べる検査。
それで、判明したんですね。
他にも要因がないのか調べたり、どういう治療法がいいのか調べたりなど2週間くらいは検査続きでした。
ただ、その間は結構元気でして、胸骨圧迫の影響だと思うんですけど、肋骨が折れていて痛かったくらいで。それも痛くて歩けないとかはなかったです。
とくに不自由なく検査中は生活できたと笑顔で語る小山さん。
骨折していたほかに、AEDを使ったあとの火傷などの後遺症はありませんでしたか?
運よくそういうのはぜんぜんありませんでした。
入院中でいつまた再発する可能性もあるか分からないので、安静にはしているんですけど、頭はスッキリしてるし、普通に歩き回れましたから。
私本人の感覚では、体調はよかったです。この頃の記憶もはっきりしています。
お聞きしていると、倒れた当日よりも元気だったかもしれないですね。
そうですね(笑)感覚的にはそんな感じでした。
入院生活や手術について
倒れたことをはじめて聞かされたときは、どうでしたか?
意外と素直に、状況はすんなり受け入れられました。そっかーって。
ちょっとゆっくりしようかなとも思いましたね。検査が終わったあと、問題の血管の手術をすることになりました。
入院した1ヵ月後ぐらいに手術をしまして、手術自体は難しい内容ではないとのことだったんですけど、全身麻酔で開胸して7時間くらいかかりました。
たしか全身麻酔とか手術には、同意書があるんですよね?
はい。妻と一緒に手術の内容を聞いてサインしました。
開胸したので、終わった後がめちゃくちゃ痛くて。咳やくしゃみをすると、内側から思い切り肋骨を殴られたような痛みで。しばらく起き上がれなかったので基本的には寝てるだけでした。
歩けるくらいにはなってから退院したんですけど、寝て起き上がるのにも力がいるし、痛くてつらかったです。
痛みを感じなくなったのはどれくらい経ってからでしたか?
今もキリキリとした痛みは残ってはいるんです。
通院は?
通院は、当初は1か月に1回くらいのペースで、現在は3か月に1度くらいのペースになりました。
術後すぐは、血流がよくなったせいだと思うんですが、心臓の音がすごいよく聞こえてドクドクという鼓動がすごくて、自分の心臓で眠れないということもありました。
自分の心臓の鼓動で眠れないこともありました。
倒れたあとの社会復帰(お仕事)って?
入院中は休職扱いでした。
倒れてから3か月後には時短勤務ですが、職場復帰できました。医者からもGOサインはいただきました。
思っていたよりもだいぶ早いですね!? 体調的には大丈夫だったんですか?
まだ体力的に不安があったので、時短勤務にさせてもらいました。
あと、術後箇所を押したら痛かったので、満員電車を避けれるように時短させていただいたというのもあります。倒れる前は、外回りの営業でしたが、事務作業をして職場復帰はしました。
考慮してくれたのは、ありがたいですよね。復帰にあたっての不安はありませんでしたか?
正直なところ、迷惑をかけた思いがだんだん強くなってきて、合わせる顔がないと思っていたのと、長く休むと行きづらくなるのもあって、あんまり復帰したくなかったです(笑)
忙しそうな職場に対して、早く復帰しないとなぁと思っている反面、時短での勤務や通院に時間を取るために休まないといけなくて……。力になれるのかという不安もあり、迷惑をかけるのがつらくて葛藤しました。
職場復帰への不安よりも、周囲へ迷惑をかけた方が辛かったです。
死ぬこと以外かすり傷
心停止の前と後で何か変わったことはありますか?
身体的には、激しい運動についてはまだ許可を得てない状態です。お酒とか食事とかで制限を受けているわけではないです。ただ、お酒は辞めました。
身体を冷やしたらいけないとか、サウナはダメみたいなのもないですか?
特に医者からはないですね。自分の体と相談をしながらできる範囲で行動してくださいといわれています。
精神面では何かありますか?
一度死にかけているので、怖いもの知らずになった面はあります。
箕輪厚介さんの本※3じゃないですけど、失敗を恐れなくなったり、新しいことへチャレンジしようとしたりする気持ちは強くなりました。妻も応援してくれています。
※3. 『死ぬこと以外かすり傷』著・文:箕輪厚介(出版社:マガジンハウス)
私も読んだことあります!
たしかに、死ぬことに比べたら大抵のことは大したことないと思えるかも。
箕輪厚介さんの話題で盛り上がる。
心肺蘇生の重要性を伝えたい
職場復帰後、仕事は半年ほど続けたのですが、その仕事は辞めました。今は、心肺蘇生の普及活動をしていて講習の提供を行っています。
心停止が起きたことが起因ですか?
はい。医師から後遺症が特になく、蘇生復帰しているっていうのは、珍しいですよっていわれたんです。
これは、その時、周りにいた人が迅速に心肺蘇生とAEDを使ってくれたからだと思って、今まで通り仕事を続けるっていう選択肢もあったんですけど、この体験を普及して還元したいなって思い立ちました。
既に動き出しています。
なるほど。具体的にどのような活動を行っているんですか?
消防署の講習や普及員講習など色々受けたんですが、講習は画一的になっているので、広く・浅くっていう前提になっていると思うんです。それはそれで普及を目的としてあるので、もちろん素晴らしいことだし、有効なことです。
ただ、1歩外れた状況になるとパニックになったり、何をすればいいのかっていう判断ができなくなるおそれがあると思うんです。
たしかに普及を目的にした場合は、難しくしてしまうと覚えるのが難しい一面はありますよね。
講習だとマネキンが仰向けに寝て置いて胸骨圧迫であったり、AEDの使い方を訓練したりするっていうのが一般的だと思うんですが、人が倒れているっていうのは、必ずしもそういうわけじゃない。
うつ伏せで倒れている場合もあるだろうし、うずくまっている場合もあるかもしれない。もちろん服も着ているし、その場合だったら「何をすればいいの?」って考えたときに、私は思考停止したんですよね。
そう言われると色んなケースがあるかも……。
救命講習だとこんなイメージです。
ですから、さまざまな講習も受けました。AHA(※3)の講習では、病院内で心停止が起きたケースを想定したプログラムがありました。
周りは医療関係者ばかりだったんで、この人なんでここにいるんだろうみたいに思われたかもしれません(笑)
講習でおこなわれた病院以外にも、職場や環境によってこんな状況も想定できるよっていう現場に則した講習を教える場所がないと気付いて、そういった講習サービスを作って提供していきたいなと思って事業をスタートしました。
- ※3. AHAとは
- アメリカ心臓協会。蘇生委員会の詳細については【図で紹介】JRCガイドラインの基礎知識。世界の蘇生委員会との関係など。 の記事でまとめています。
なるほど。現場にいる人からだとすごくありがたいかも!
その現場で起こりえる可能性が高い状況を講習に盛り込むということですか?
そうですね。とくに、普通の講習と違うと思うのは、気付きがあることだと思います。
たとえば、会社内であなたしかいません。コピーを取りに行ったら女性が倒れてコピー機にもたれかかっている。
こういった状況を想定した実技をメインでおこなうので、「あれ? 動かすべきなのかな?」とか、「119番を優先するのがいいのか?」、「AEDのパッドを貼るために下着はどうやって脱がしたらいいんだろう?」など、体験してみて初めて気付くことがあります。
実技が終わった後に、「どうすればよかったんだろう?」、「こうした方がよかったのでは?」という気付きを参加者同士で共有して確認することは、いざという時に必ず役立つ知識となります。
企業や個人ごとに、心停止が発生しやすい状況や抱える課題は異なりますので、お話を聞いたうえでどのような講習や実技を組み込むか講習の内容を決めていきます。
心停止は誰にでも起こりうる
心停止は誰にでも起こる可能性があるので、いざとなった時に動けるように備えるのは大切なことですよね。
助けてくれた方へは、とても感謝をしています。もし、大切な方がそういった状況に陥っていたときに、後悔してほしくはないです。
そうですね。いざというときに動いてくれる人が増えるといいですね。ありがとうございました。
最後に2人で撮影。この後、小山さんの講習を社員が受けました。
ご協力(インタビュイー情報)
会社名 | アドライフ |
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URL | https://add-life.jp/ |
ブログ | https://review-review552.com/ |
注意事項
症状や治療については、必ず主治医の診断を受けてください。