イザという時、AEDを正しく使用できますか?
AEDは電極パッドを肌に貼り付けて使用します。電極パッドを正しく肌に貼りつけないと正しく機能しなかったり、電気ショック時に危険が発生することがあるので、状況によっては電極パッドを貼る際に注意が必要です。
どちらかというと例外的な状況かもしれませんが、これから紹介する状況に応じた注意点を知らないと、イザという時どうして良いか分からず適切な対処ができない可能性があります。緊急時に正しくAEDが使えるよう、当記事を確認しておいていただけたらと思います。
AED使用時の注意点、女性への配慮についてまとめています。
当記事では、AEDの電極パッドを貼る時に注意すべき「状況」とその「対処法」についてまとめました。また、AEDは胸をはだけて使用する機器なので、傷病者が女性だった場合の配慮も重要です。AED使用時の女性への配慮についても記載しました。
はじめに:AEDとは
AEDはAutomated External Defibrillatorの略で、頭文字をとってAEDと呼ばれています。日本名は自動体外式除細動器(じどうたいがいしきじょさいどうき)です。心停止状態にある傷病者を電気ショックによって救命する機器です。
AEDは「心室細動」や「心室頻拍」と呼ばれる心臓が細かく振動してしまい、血液が送り出せなくなる不整脈(この不整脈が発生している状況は心臓が正しく機能していないので、心停止と呼ばれます。)を電気ショックによって除去します。
一度心臓を止め、再度正常に動き出せる状態を作り出すのがAEDなので、心臓が元に戻る力をもっている間に、つまり心停止発生から出来るだけ早く使用することが救命の鍵です。
完全に心臓が止まってしまっている状況では効果が無かったり、心停止の種類によっては効果が無い場合があります。
AEDは、電気ショックを行う機器ですが、同時に電気ショックが必要かどうかを判断する機器でもあります。電極パットを傷病者に貼ると、AEDが心電図を解析して電気ショックが必要かどうかを判断してくれるので、傷病者を発見したら電気ショックが必要かどうか自分で判断するのではなく、まず電極パッドを貼り、AEDに判断させてください。
まず、AEDの電極パッドを貼ることが重要です。
それでは、電極パッドを貼る際の注意点をみていきましょう。
1.傷病者の胸が濡れている
AEDを使用する際に、電極パッドを貼ることになる傷病者の胸の部分が濡れていると、電気ショックの電気が体の表面の水を伝わって流れてしまうため、電気ショックによる十分な効果が得られません。タオルや布で、胸を拭いてから電極パッドを貼り付けてください。
AEDとセットになっていることの多いレスキューセットには、水をふき取る目的で布が入っています。AEDにレスキューセットが付属していないか、その中に布などが入っていないかを確認してみてください。水がふき取れればよいので、お手持ちのタオルなどを使っても問題はありません。
その他のケースとして、傷病者が水に浸かっている場合には、まずは水から引き出す必要があります。
筆者注記1:濡れていたら感電しないの?
濡れた床の上や、氷や雪の上に倒れている場合AEDを使用して大丈夫か不安になるかもしれませんが、地面が濡れていても周囲の人が感電することは無いといわれています。電極パッドが水に触れなければAEDを使用して大丈夫です。
2.貼り薬が貼られている
電極パッドを貼る部分に、湿布薬や、鎮痛剤、ホルモン剤、降圧剤などの貼り薬が貼られている場合も注意が必要です。貼り薬の上から電極パッドを貼り付けてしまうと電気ショックの効果が弱まったり、火傷(やけど)を起こす可能性があります。まずはこれらを剥がし、残っている薬剤をふき取ってから電極パッドを貼り付けてください。
拭くための布などが無い場合は、AEDのレスキューセットの中に入っていないか確認してみて下さい。
3.ペースメーカー等が植え込まれている
ペースメーカーやICD(植込み型除細動器)をご存知でしょうか。ペースメーカーは心筋に電気刺激を与えることで必要な心収縮を発生させる医療機器で、心拍が必要数より少なくなってしまう人に必要数の心拍を起こさせる機器です。
ICDは、AEDを体の中に植え込むイメージの機器で、心停止状態を感知すると直接心臓に電気ショックを行います。いずれも5cmくらいの楕円形に近い形状をしており、心臓の上部の皮膚の下に植え込まれている場合が多いです。
これらがある場合は、胸に硬いこぶのようなでっぱりがみえます。貼り付ける位置(主に胸)にでっぱりがある場合、このでっぱりを避けて電極パッドを貼り付けてください。
筆者注記2:ペースメーカーやICDが壊れませんか?
電気ショックによってこの機器が壊れてしまうことを気にする方もいらっしゃいますが、傷病者が倒れている状態では、これらの機器がうまく動作していないか、これらの機器で十分な傷病者のサポートができなかった可能性が高いです。
何もしなければ救命はできないので、まずはAEDの電極パッドを貼って、AEDに電気ショックが必要かどうか判断させてください。
4.胸毛が濃い
胸毛が濃いために電極パッドが肌に密着しないと、電気ショックの十分な効果が得られない可能性があります。また、スパークによって着火する可能性も非常にまれながらあるようなので、胸毛が濃い場合は胸毛を除毛してから電極パッドを貼ることが望ましいです(日本人で除毛が必要なほど胸毛が濃いケースは稀ではあります。)。
以前、都市伝説的に、胸毛が濃い場合は予備用の電極パッドを貼ってむしり取れ、というような話がネット上で流行ったことがありますが、電極パッドを肌などに貼ったことがある人なら分かる通り、電極パッドの粘着力は除毛できる程ではありません。
除毛の際には、AEDのレスキューセットに付属していることの多いカミソリ等を利用して下さい。
日本では除毛が必要なほど胸毛が濃い人は少ないですが、念のためレスキューセットには除毛用にカミソリが入っていることが殆どです。胸毛が濃いと思った場合はレスキューセットの中を探してみてください。
レスキューセットはキャリングケースのポケット部分に入っていることが多いです。ただし全てのAEDにレスキューセットが付属しているわけではありません。
筆者注記3:予備用電極パッドが付属していない場合もあります。
胸毛は予備用の電極パッドではむしり取れないことを記載しましたが、予備用の電極パッドが付属していない場合も少なからずあります。
一つしかない電極パッドで除毛をしようとした結果、電極パッドの貼り付く能力が落ちて電気ショックが出来なくなっては元も子もありませんので、予備の電極パッドの存在が確認できない状態で電極パッドで除毛しようとすることは絶対に避けて下さい。
5.貼り付け部付近に金属製品がある
金属製品にも注意が必要です。金属製品(ネックレス・ペンダントなど)が電極パッドに接触していると、電気ショックの効果が不十分になるだけでなく、スパークの危険があります。接触しないように注意して下さい。
金属性のネックレスなどをしている場合は、それを取り外すことが推奨されています。レスキューセットに付属しているハサミは服を切ることを想定した頑丈なハサミで、ネックレスくらいであれば金属も切れる仕様であることが多いです。取り外しが困難な場合は、そのハサミを利用してネックレス等を切って取り外してください。
ただし、早急に除細動を行うことが最優先とされています。金属が電極パッドに接触するのは絶対に避ける必要がありますが、そうでなければ時間をかけて無理に外す必要はありません。
6.揺れている場所での使用
車の中や電車の中など、揺れている場所で使用する場合、AEDの心電図解析が正しく行われない可能性があります。心電図解析を行うタイミングでは車を一旦止めるようにして下さい。
AEDの心電図解析技術も進化しており、心臓の動き以外の外的な振動等の影響を受けずに解析できるように技術開発が進んでいるようですが、どの程度のどんな揺れなら影響を受けないのか、AEDの振動等の影響の専門家でなければ判断が難しいところだと思います。また機種によって性能差があるため、影響は機種によって違ってきます。
これらを考慮すると、いくらAEDが振動に影響されにくいように技術開発されているとはいえ、外的な振動が無いに越したことはありません。AEDは基本的には揺れている場所では使用しないようにして下さい。
7.女性への配慮
一時期、「女性にAEDを使おうとして服を切ったら痴漢呼ばわりされ事情聴取をうけた」、という嘘か本当か分からない話がネット上で話題になりました。
明らかに救命が必要と誰からみても分かる状態で救命処置をしようとしている時に痴漢扱いされることはまず無いと思いますが、女性への配慮の必要性を気付かせてくれる良い問題提議であったとは思います。
実際のところ、救命のためとはいっても公衆の面前で胸をはだけられたくない女性は非常に多いことが想定されます。そういった思いを尊重できる配慮が求められます。
7-1.女性傷病者への配慮の方法
もしあなたが男性なら、女性の傷病者を発見した時に、あなたが救命活動を行うのではなく、まず一次救命ができる女性を探すいうのも一つの手です。
また、救命活動中に使うテント(救命テントや処置テント)がある場合はテントの中で一次救命処置を行ったり、人の壁を作って周囲から傷病者が見えなくする配慮も有効です。電極パッドを貼った後、タオルや上着等をかけて胸が露出しないようにすることも推奨されています。
これらの対応が必要かどうか、また実施可能かどうかは状況によってまちまちだとは思います。傷病者の気持ちを考えるとそういった配慮も大切ですが、電気ショックの時間を遅らせないことが非常に重要です。状況に応じて、可能な範囲で配慮を行うようにして下さい。
筆者注記4:大声で助けを呼ぼう!
「救命の連鎖」にある「心停止の早期発見と通報」の流れの中に、「大声で助けを呼ぶ」と言う項目があります。これは主に救命率を向上させるためのものですが、上記の女性を探すということや人垣を作って傷病者を隠すことも出来ます。一人でやらずに周りに助けを求めることが大事です。
7-2.AED使用時にブラジャーを外すべきかどうか
AEDを使用する時にブラジャーを外すべきかどうか、という疑問を持つ人も多いようです。
以前は、ネックレスなども含め金属を含むブラジャーは危険なので取り外す、というのが一般的だったのですが、これについては考え方が変わり、AED のパッドを素肌に直接貼り付けることができていれば、ブラジャーは外す必要はない、ということになっています。
特に、金属部分と電極パッドが触れる場合はスパークを起こす危険性がありますが、離れていればその危険性は低いようです。また、ブラジャーを外すことに時間をとられて電気ショックが遅れては元も子もない、という考え方も背景にあるようです。
AEDを使用する時は、ブラジャーが電極パッドの下に重ならないよう下着部分を避けて地肌に直接貼り付ける、という対応をするようにして下さい。電気ショックの時間を遅らせないことが非常に重要ですので、そのことを忘れずに、可能な範囲で傷病者に配慮をするようにしてください。
私はガイドラインが更新された2010年以降にも何度か講習を受けましたが、AED使用時にブラジャーをどうするかについては講習をうけた場所によって見解が違うことがありました。まだまだ講習をする側にも浸透していない内容なのかもしれません。
まとめ
AEDを傷病者に使用する際の注意点についてまとめました。当記事の事例を確認しておけば、電極パッドを貼ろうとする時の殆どの状況に対応ができると思います。イザというとき、適切にAEDを使用する助けになれば幸いです。
なお、一次救命処置の一連の流れについてや、救命の連鎖について詳しく知りたい場合は下記の記事をご参照下さい。