授乳中の窒息から赤ちゃんを守るために|安全な授乳方法と対処方法【助産師解説】
赤ちゃんへの授乳は、成長に必要な栄養を届けながら親子の絆を育むための大切な時間です。
しかし、「もしかしたら赤ちゃんを授乳で窒息させてしまうのでは」と不安を感じるお母さんやお父さんは少なくありません。特に、新生児が窒息しかけたという経験や添い乳での死亡事故といったニュースを目にすると不安は募るでしょう。
事故や死亡リスクはゼロに防げるわけではありませんが、このような授乳中の窒息事故のリスクを減らすために、正しい知識と対策を学ぶことが大切です。
この記事では、助産師の視点から授乳中の窒息を防ぐための具体的な方法や、万が一の時の対処法を詳しく解説します。大切な赤ちゃんを窒息から守り、安心して授乳ができるように一緒に学びましょう。
1. 授乳中の窒息を防ぐためには
授乳中の赤ちゃんが窒息するリスクを減らすために、以下の項目について確認しましょう。
- 正しい授乳姿勢を保つ
- 授乳後にげっぷをしっかり出す
- 顔を横に向けてあげる
以下に、それぞれ詳しく解説します。
1-1. 正しい授乳姿勢を保つ
窒息を防ぐためには、正しい授乳姿勢を保つことが大切です。授乳姿勢が適切でないと赤ちゃんがうまく乳頭や乳輪を咥えられず、むせたり気道を塞いでしまったりするリスクが高まります。
授乳には、横抱き、縦抱き、フットボール抱きなどさまざまな抱き方がありますが、どの姿勢にも共通するポイントがあります。(※1)
確認事項 | 詳細 |
---|---|
赤ちゃんの体とお母さんの体をしっかりと密着させて腕全体で抱く | 赤ちゃんの体の前側とお母さんの胸の部分が向き合うようにする |
赤ちゃんの姿勢が真っすぐになるように抱く | 首が曲がっていると、うまく飲み込めない。耳・肩・股関節が一直線になるように意識する |
赤ちゃんがおっぱいを探し始めたら、赤ちゃんの鼻先がお母さんの乳首にくるように抱く | 赤ちゃんが自然と口を大きく開け、深く乳頭を咥えられる |
片方の手で乳房を支えるときは、指が乳輪にかからないようにする | 指が乳輪にかかると赤ちゃんが乳頭と乳輪を深く咥えられず、うまくのめなかったり空気も一緒に飲み込みやすくなったりする |
これらの姿勢を保つために、授乳クッションや足台などを活用してお母さんの乳房と赤ちゃんの高さを合わせることも大切です。お母さんの体への負担も軽減され、より安定した授乳が可能になるでしょう。
1-2. 授乳後にげっぷをしっかり出す
授乳後のげっぷは、赤ちゃんの窒息を防ぐために大切です。
赤ちゃんは授乳時に空気も一緒に飲み込んでしまい、空気が胃にたまると吐き戻しの原因となります。また、赤ちゃんの胃は大人と比べて縦長で、噴門と呼ばれる食道と胃をつなぐ筋肉が未発達なため、吐き戻しが起こりやすい状態です。
吐き戻した際に吐いた物が気管に詰まると、窒息のリスクが高まります。そのため、授乳後はしっかりとげっぷを出してあげるのが大切です。
げっぷを促すには、赤ちゃんを縦抱きにして背中をトントンと優しく叩く方法や、赤ちゃんを横向きにしてお母さんの太ももに座らせ、赤ちゃんの脇の下に手を入れてトントンと叩く方法があります。授乳をしている途中で一度休憩を挟み、授乳の合間にげっぷを促すのもいいでしょう。
1-3.顔を横に向けてあげる
げっぷが出ない場合や万が一吐き戻しがあった場合、赤ちゃんの顔を横に向けてあげると吐いた物が気道に詰まるリスクを減らせます。これは、吐しゃ物が口からスムーズに流れ出るようになるためです。(※2)
ただし、注意が必要なのは、一時的に顔を横に向けることと普段の睡眠時に横向きで寝かせることは全く別だという点です。横向きやうつぶせでの睡眠は乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクを高めるため、基本的に医師からの指示がない限り、赤ちゃんが1歳になるまでは必ず仰向けで寝かせるようにしてください。(※3)
2.そもそも、なぜ授乳中に窒息が起きるのか
赤ちゃんが授乳中に窒息してしまう原因として、赤ちゃんの体の特徴や授乳時の状況が大きく関係しています。
2-1. 飲み込む機能が未熟
新生児には「哺乳反射」があり、口から喉にかけての構造が大人とは異なっています。これにより、赤ちゃんは呼吸をしながらでも母乳を飲むことができ、気道に入りにくいようになっているのです。
しかし、哺乳反射は成長に伴って徐々になくなり、喉の構造自体も大人と同じように呼吸を一時的に止めながら飲み込む動きが出てくるようになります。新生児期を過ぎた後の生後数カ月から離乳食が始まる頃にかけての赤ちゃんは飲み込みの機能が変化する時期のため、より注意が必要です。(※4)
2-2. 誤った授乳姿勢や添い乳
赤ちゃんが不安定な姿勢で授乳をすると、飲み込む際に母乳やミルクが誤って気道に入ってしまう可能性があります。
また、添い乳はお母さんが横になった状態で赤ちゃんに授乳する方法です。添い乳での死亡事故がニュースで取り上げられることがありますが、お母さんが授乳中に寝てしまい、お母さんの体の一部が赤ちゃんの鼻や口を塞いでしまうことによって起こります。授乳中の居眠りは多くのお母さんが経験しますが、安全のためには十分な注意が必要です。
2-3. 授乳後の吐き戻し
赤ちゃんは消化器系の発達が未熟で、授乳後に母乳やミルクを吐き戻すことはよくある生理現象です。胃の入口を閉じる筋肉(噴門)が弱く、大人の胃と比べて形も縦長であるため、母乳やミルクが逆流しやすい構造になっています。
吐き戻しが起こると母乳やミルクが口から出てくるだけでなく、場合によっては鼻や気道に入ることもあります。この状態が続くと、赤ちゃんが呼吸困難になったり窒息の原因になったりする可能性があるため、授乳後のげっぷをしっかり促すことが大切です。
3. 夜間の授乳や添い乳での窒息の危険性を最小限にするには
夜間の授乳は、お母さんの眠気も相まって特に窒息のリスクが高まりやすい時間帯です。ここでは、夜間の授乳による窒息リスクを最小限にするための具体的な対策をご紹介します。
対策が必要な場面 | 具体的な対策 |
---|---|
お母さんの眠気が強いとき |
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夜間の授乳時 |
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授乳後 |
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赤ちゃんを寝かせるとき(1歳まで) |
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このような対策を実践できれば、夜間の授乳や添い乳での窒息のリスクを減らせるでしょう。忙しい中でも無理なく取り入れられる方法で、赤ちゃんとの夜間の授乳を安心・安全な時間にしてください。(※5)
4. 赤ちゃんの窒息のサインと応急処置の方法
万が一赤ちゃんが窒息してしまった場合、窒息のサインをいち早く見つけ、迅速に応急処置を行いましょう。
4-1. 窒息のサインは顔色の変化や咳など
赤ちゃんが吐き戻しをしても親が気付かないといった状況は、夜間に起こりやすく注意が必要です。静かに吐き戻していると、声をあげずに窒息してしまう恐れがあります。そのため、赤ちゃんの顔色や呼吸の様子を普段から注意深く観察し、異変のサインを見逃さないことが大切です。
異変のサイン | 内容 |
---|---|
チアノーゼ | 唇や顔が青紫色になる。酸素不足のサイン |
陥没呼吸 | 肋骨の間や胸の下がへこむような呼吸で、呼吸が苦しい状態 |
泣けない、大きな声をあげられない | 気道が塞がれていて声に力が入らない状態 |
弱々しい咳 | 咳に力がなく、異物をうまく排出できない状態 |
ヒューヒュー呼吸している(喘鳴/ぜんめい) | 気道が狭くなり、呼吸をするときに音がする。気道の一部が塞がれている恐れ |
赤ちゃんが苦しんでいるサインは、鳴き声や表情だけでなく呼吸の音や顔色、胸の動きなどに現れます。特に夜間は見落としがちになるため、ベビーモニターの活用も効果的です。カメラ付きのものであれば顔色の変化も確認しやすく、音声付きなら呼吸の異常にも早く気付けるでしょう。(※6)
4-2. 窒息したときの応急処置方法
万が一、赤ちゃんが窒息した場合、意識の有無で応急処置の方法が異なります。ここでは、意識のある乳児に対する処置方法をご紹介します。
まずは、119番通報をする準備をしつつ、落ち着いて次の手順を行いましょう。
背部叩打法
最初に行うのが「背部叩打法(はいぶこうだほう)」です。この方法は、赤ちゃんをうつぶせにして背中を叩き、気道に詰まった異物を外へ出す方法です。
背部叩打法の手順
1.赤ちゃんをうつぶせにする
赤ちゃんの顔を下にして手のひらであごをしっかり支えながら腕に乗せる。頭が体より低くなるようにし、口の中を覗いて異物があれば取り除く
2.背中を叩く
もう片方の手のひらの付け根で、肩甲骨の間を5回連続でやや強めに叩く
3.確認
異物が出たかどうかを確認する。もし出ていなければ「胸部突き上げ法」に移る
背部叩打法を行うときは、赤ちゃんの頭をしっかり支え、落下させないようにしてください。また、異物が見える際は、無理に奥へ押し込まないように注意して取り除きましょう。
胸部突き上げ法
背部叩打法で異物が出なかった場合、続けて行うのが「胸部突き上げ法」です。
胸部突き上げ法の手順
1. 赤ちゃんを仰向けにする
赤ちゃんの顔を上にして腕に乗せ、手のひらで後頭部をしっかり支える
2. 胸を圧迫する
反対の手の人さし指と中指で、乳頭と乳頭を結んだ線の指1本分下の胸骨を、垂直に5回圧迫する
3. 処置を繰り返す
異物が出るまで、背部叩打法と胸部突き上げ法を交互に繰り返す
胸部突き上げ法で胸骨を圧迫する際は、指の腹ではなく指の付け根に近い部分を使い、胸郭の1/3が沈む程度の深さで行いましょう。
なお、今回紹介した背部叩打法と胸部突き上げ法は、母子手帳にも記載されています。いざというときに備えて、一度確認しておきましょう。また、窒息後、呼吸が戻った場合でも、体調や異物の一部が残っていないかを確認するために受診するようにしてください。(※7)
5. まとめ
赤ちゃんへの授乳は、必要な栄養を届けるだけでなく親子の絆を深める大切な時間です。しかし、誤った授乳姿勢や吐き戻し、添い乳による窒息事故のリスクもゼロではありません。
しかし、正しい授乳姿勢やげっぷの習慣、安全な寝かせ方を知るなどポイントを押さえれば、事故のリスクを低減することができます。また、万が一のときの窒息のサインや背部叩打法、胸部突き上げ法といった応急処置の方法を知っておくのも赤ちゃんの命を守るための一助になります。
育児は一人で抱え込みすぎず、パートナーや家族と協力して、安全で安心な授乳環境を整えていきましょう。
6.参考文献・参考リンク
6-1.授乳中の窒息を防ぐための参照・参考資料
- ※1. こうのとりくらぶvol.47 2017秋号(順天堂大学医学部附属静岡病院産婦人科)
- ※2. どうする?子どもの急病上手なお医者さんのかかり方(島根県)P11
- ※3. 睡眠中の赤ちゃんの死亡を減らしましょう(厚生労働省)
- ※5. Vol.607 就寝時の窒息事故に気を付けましょう(消費者庁)
- ※6. 意識のある乳児における窒息の治療 – 21. 救命医療(MSDマニュアル プロフェッショナル版)
- ※7. こどもの家庭内事故を防ごう(日本小児科学会)