安倍晋三元首相ご逝去の報に接し、謹んでお悔やみ申し上げます。
事件のニュースに「AEDが作動しなかった」、「出血による心停止ではAEDを使ってはいけない」などの誤解が広まり、日本AED財団から「安倍元総理銃撃事件に関わるAED使用について」と題した緊急メッセージが出されました。
AEDにまつわる誤解について詳しく解説します。
1.AEDが作動しなかったのではなく、電気ショックが不要だった
ニュースでは、正しい手順を踏み、故障もしていなかったはずのAEDが動かなかったと報道されていました。
正しい手順で故障もしていなかったのであれば、「AED自体が動かなかったのではなく、安倍元首相には電気ショックが必要のない心停止だった」ということになります。
電気ショックが必要のない心停止?
心停止と聞くと映画のワンシーンにあるような「ピーーーッ」という音とともに、心電図がまっすぐ横に延びた場面が浮かぶのではないでしょうか。この誰もが心臓が止まっていると感じる状態のほかに、心臓が小刻みにけいれんしている状態など心停止には種類があります。AEDは、心臓の状態を確認し、電気ショックが必要な心停止なのかを判断しています。
2.4種類の心停止
以下が心停止の種類です。
- 心室細動
- 心室頻拍
- 心静止
- 無脈性静電気活動
この中で、電気ショックが必要と判断するのは「心室細動」と「心室頻拍」の2つです。ひとつずつ説明します。
心室細動(しんしつさいどう)
心臓には全身に血液を送るポンプ機能があり、心房と呼ばれる部位が血液を受け取り、心室が血液を送り出しています。心室細動は心臓の筋肉がけいれんを起こす不整脈で、ポンプ機能を果たせず血液が送れない状態になっている心停止です。倒れた人が心室細動の場合、AEDを使用時には「電気ショックが必要です。」とガイダンスが流れます。
心室頻拍(しんしつひんぱく)
正しくは無脈性心室頻拍(むみゃくせいしんしつひんぱく)といいます。心室が興奮状態になってほとんど血液を送り出さなくなり、脈が触れなくなります。この場合もAEDの電気ショックが必要な状態となります。
心静止(しんせいし)
心臓が活動していない状態です。AEDの電源を入れて、心電図を解析しても「電気ショックは不要です」とガイダンスを流します。
無脈性電気活動(むみゃくせいでんきかつどう)
心電図では正常な波形に見えますが、脈拍が触れていない状態のことです。電気的な活動はあるが脈が触れておらず、AEDで解析を行っても「電気ショックは不要です。」とガイダンスされます。
心停止の種類によるまとめ
心臓がけいれんしている心停止 |
| AEDの電気ショックは適用される |
心臓がけいれんしていない心停止 |
| AEDの電気ショックは適用されない |
詳しくは、「AEDが適応可能な症状とは。心電図で見る4種類の心停止。」の記事をご確認ください。
ポイント
電気ショックが必要ないということが、「あぁ、良かった!」と思えることではありません。心静止のように電気ショックが不要なだけで心肺蘇生は必要な状態があります。
機種により細かい文言は違いますが、不要と判断した後についてもちゃんとガイダンスが入ります。「電気ショックは不要です。ただち胸骨圧迫を始めてください。」とAEDが指示します。
3.どんな状態でもAEDがいのちを助けるという誤解
AEDがどんな心停止にも有効ではないのは、その名称からも分かります。AEDは日本語名称で「自動体外式除細動器」です。
「自動」で判断して「体の外側」から、心臓の「細動(けいれん)」を「取り除く機械」です。AEDの電気ショックによって完全に止まった心臓が動きだすのではなく、けいれんを取り除く機械となります。
心臓のけいれんは胸骨圧迫(心臓マッサージ)では取り除くことができません。またドラマや映画の話をしますが、医師が「200にチャージ!離れて!…バンッ!」というようなシーンを見たことがあると思います。
医師は心電図を見て心臓がどういう状態かを判断し電気ショックを流しています。私たち一般人は、医師のように心電図を見てけいれんしているか判断できませんし、見た目で心臓がけいれんしているのも分かりません。
そこで、AEDの出番です。AEDを起動し電極パッドを身体に貼り付けることで、心電図をAEDに確認してもらい、電気ショックが必要な心停止なのかをAEDに判断してもらいます。心停止は1分1秒を争う場面です。電気ショックと心肺蘇生を行うことで救命率は4倍変わってきます。
4.安倍元首相はどの心停止だったのか
AEDの内部には、使用した場合、心電図のデータを記録する機能がついています。機種により差異はありますが、心電図のほかに電源のONOFFなども分かります。
この内部データを見ないと、どの心停止だったのかは分かりませんが正しい手順で故障もしていなかったのであれば、AEDが作動しなかったのではなく、電気ショックが不要だった心静止か無脈性電気活動の可能性が高いです。
5.AEDが作動しないことはあるか?
ここまで読まれた方は、電気ショックがされなかったということと、AEDが作動しなかったということは別だという認識を持たれたと思います。
では、AEDが作動しないことはあるでしょうか?
これは大いにあり得ます。AEDの電源が入らない、電気ショックが必要でも出せないなど、作動しない主な理由を以下に挙げます。
耐用期間を過ぎていた
AEDには正常に動く期間をメーカーが耐用期間として定めています。これが過ぎていた場合、経年劣化により機種に不具合が生じている場合が考えられます。
バッテリーの期限が過ぎていた
そもそも、AEDはバッテリーの容量がないと電源が入りません。また電源が入っても容量不足で、電気ショックを出すためのパワーが無いなどに陥ります。
電極パッドの期限が過ぎていた
期限を過ぎると身体に貼る電極パッドのゲル(ジェル)が乾燥したり、逆に溶けてしまっていたりなどで身体にピッタリと貼れなかったりすることがありえます。
正確に心電図を測定できず、電気ショックをしても、しっかりとエネルギーが伝わらないということがあります。
故障していた
AEDはセルフテストと呼ばれるチェック機能があります。24時間に1度どこか壊れていないか確認するテストを自動で行っています。(1週間に1度のAEDもあります)
このセルフテストの結果が、インジケーターと呼ばれる場所に正常なことを表示してくれているので日頃から確認するようにしましょう。これを「日常点検」といいます。
AEDを買ったら終わりではありません。いざという時に使える状態であるよう日常点検を行うことが大事です。期限の管理やAEDの状態確認をサポートしてくれる販売店や機種もあります。
6.出血よる心停止にはAEDを使ってはいけないか?
使います。出血の場合は、圧迫止血(出血箇所を強く押さえる)をしたうえで胸骨圧迫やAEDを使います。
倒れた理由は不問で、緊急時にはすぐに心肺蘇生とAEDを使用してください。出血であろうが、病気であろうが、銃で撃たれたのであろうが、心停止した状態のままでは確実に亡くなってしまいます。AEDを使わなければ心臓はけいれんしたままで止まったままです。
7.伝えたいこと
意識がなく正常な呼吸がなければ、心肺蘇生とAEDを使うことで救命の確率はあがります。見た目ではどの種類の心停止かは誰も分かりません。
すべての心停止にAEDの電気ショックが有効なわけではありませんが、AED自体は心停止が疑われる状況では有効です。AEDは電気ショックの要否を判断し、必要に応じて電気ショックを促し、不要でもその後の一次救命を音声で指示してくれます。倒れた理由は不問です。心停止を疑ったらすぐにAEDを使いましょう。
また、購入したあとも日頃の点検を忘れずに行いましょう。インジケーターの確認を、毎日チラっと見るだけで大丈夫です。
8. 少しの知識が命を救う可能性があります。
当メディア(AEDガイド)では、AEDや一次救命の情報をお届けしています。
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